『夜の糸ぐるま』 10~12
短編『夜の糸ぐるま』(10)
「広瀬川河畔」
康平の店が有る呑竜仲店のアーケードから、市内を流れる広瀬川までは、
路地をゆっくりと抜けていっても、5分とかかりません
広瀬川は、前橋市のシンボルと呼べる美しい河川で、街の真ん中を流れる、
整備が行き届いた河川緑地です。
遊歩道に沿って、ツツジや柳がどこまでも続き水量は常に豊かに流れます。
「水と緑と詩のまちの前橋」を象徴する景色が、
いたるところに点在をします。
ほとりには、「萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち前橋文学館」や
「広瀬川美術館」、萩原朔太郎や伊藤信吉らの詩人の詩碑なども、
多数が点在をしていて、川に沿いながら文学と芸術の散策を
楽しむことができます。
「私は、真冬の8万球のイルミネーションが、大好き」
一歩先にお店を出て、
広瀬川のほとりを歩き始めたあゆみが、独り言を、
ぽつりとつぶやいています。
前橋市の冬の風物詩、広瀬川河畔を彩るイルミネーションは、
諏訪橋から比刀根橋までの620mにわたって、8万球の灯りが
幻想的に点灯します。
「俺もイルミネーションは好きだが、
一人で歩いて失敗をした。
どこを見ても、アツアツのカップルばかりで、
目のやり場に困った・・・・
やはりロマンチックなものは、女性と二人に限る」
後から追いついてきた康平が、厚手のコートをあゆみに羽織らせながら、
そんな去年のにがいイルミネーションの経験を、ぽろりと口走ります。
『じゃあ、今年は誘ってくださる?』、そんな目つきで、
あゆみが見上げてきました。
アッと気がついたあゆみが、頬を赤らめそんな自分の気持ちに、
あわてて訂正をくわえています。
(何言ってんの、妊婦のくせに。
順調に育てば、生まれてくるのはその頃だ。
馬っ鹿みたい、あたしったら。何考えているんだろう)
「そうだろうな。
生まれてくるとしたら、その頃だ。
上手くいったら、3人で歩けるかな。
そのイルミネーション」
立ち止まって煙草に火をつけた康平が、川面を見つめたまま、
ごく普通の様子で言い放ちます。
「別に他意は、無いさ」向き直った康平が、無邪気な笑顔を見せています。
「どうせ、その頃になっても、俺はひとりだし、
君も実家が前橋だから、
どうせこっちに戻ってきているような気がしただけだ。
年内が無理でも、年明けだってイルミネーションは、点いている。
歩いてみたいなぁ、君と3人で」
「私が、すっかり、
もう産むと決めているような口ぶりね。
どこから来るの、そのあなたの自信は。
私はまだ、何も決めていないし、考えても居ないわよ。
ただ、そう言う事実が、今日になってから判明したと言う
事実が有るだけだわ。
そりゃあ、私も・・・・」
と言いかけた処で、あゆみが口をつぐんでしまいます。
よく考えてみれば、昨日から今日にかけての連続した負の出来事が
続く中で、まだ冷静になっていない自分がいることに、
初めて気がつきました。
(昨日は、あいつが出て行って、それっきりのまま、
頭の中は錯綜したままだ・・・・
今日は、もしやと思って検診を受けた病院で、
懐妊の事実だけがはっきりとした。
なのに私はいまだ、なにひとつ冷静になって物事を考えて、
次にするべきことも、はっきり決めても居ないし、
何一つ考えてもいない状態だ。
このままで、明日からの私は、いったいどうなるのだろう・・・・
どうなっちゃうのだろうか・・・)
あゆみが、暗い川面をみつめたまま立ち止まってしまいました。
煙草の煙が、あゆみへ届くのを気にしているのか、さっきから康平は、
常に5~6歩ほどの間隔を保ったまま、静かに後ろから歩いています。
立ち止まってしまったあゆみの様子に気がつくと、康平も
その場で歩みを止めてしまいました。
「広瀬川河畔」
康平の店が有る呑竜仲店のアーケードから、市内を流れる広瀬川までは、
路地をゆっくりと抜けていっても、5分とかかりません
広瀬川は、前橋市のシンボルと呼べる美しい河川で、街の真ん中を流れる、
整備が行き届いた河川緑地です。
遊歩道に沿って、ツツジや柳がどこまでも続き水量は常に豊かに流れます。
「水と緑と詩のまちの前橋」を象徴する景色が、
いたるところに点在をします。
ほとりには、「萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち前橋文学館」や
「広瀬川美術館」、萩原朔太郎や伊藤信吉らの詩人の詩碑なども、
多数が点在をしていて、川に沿いながら文学と芸術の散策を
楽しむことができます。
「私は、真冬の8万球のイルミネーションが、大好き」
一歩先にお店を出て、
広瀬川のほとりを歩き始めたあゆみが、独り言を、
ぽつりとつぶやいています。
前橋市の冬の風物詩、広瀬川河畔を彩るイルミネーションは、
諏訪橋から比刀根橋までの620mにわたって、8万球の灯りが
幻想的に点灯します。
「俺もイルミネーションは好きだが、
一人で歩いて失敗をした。
どこを見ても、アツアツのカップルばかりで、
目のやり場に困った・・・・
やはりロマンチックなものは、女性と二人に限る」
後から追いついてきた康平が、厚手のコートをあゆみに羽織らせながら、
そんな去年のにがいイルミネーションの経験を、ぽろりと口走ります。
『じゃあ、今年は誘ってくださる?』、そんな目つきで、
あゆみが見上げてきました。
アッと気がついたあゆみが、頬を赤らめそんな自分の気持ちに、
あわてて訂正をくわえています。
(何言ってんの、妊婦のくせに。
順調に育てば、生まれてくるのはその頃だ。
馬っ鹿みたい、あたしったら。何考えているんだろう)
「そうだろうな。
生まれてくるとしたら、その頃だ。
上手くいったら、3人で歩けるかな。
そのイルミネーション」
立ち止まって煙草に火をつけた康平が、川面を見つめたまま、
ごく普通の様子で言い放ちます。
「別に他意は、無いさ」向き直った康平が、無邪気な笑顔を見せています。
「どうせ、その頃になっても、俺はひとりだし、
君も実家が前橋だから、
どうせこっちに戻ってきているような気がしただけだ。
年内が無理でも、年明けだってイルミネーションは、点いている。
歩いてみたいなぁ、君と3人で」
「私が、すっかり、
もう産むと決めているような口ぶりね。
どこから来るの、そのあなたの自信は。
私はまだ、何も決めていないし、考えても居ないわよ。
ただ、そう言う事実が、今日になってから判明したと言う
事実が有るだけだわ。
そりゃあ、私も・・・・」
と言いかけた処で、あゆみが口をつぐんでしまいます。
よく考えてみれば、昨日から今日にかけての連続した負の出来事が
続く中で、まだ冷静になっていない自分がいることに、
初めて気がつきました。
(昨日は、あいつが出て行って、それっきりのまま、
頭の中は錯綜したままだ・・・・
今日は、もしやと思って検診を受けた病院で、
懐妊の事実だけがはっきりとした。
なのに私はいまだ、なにひとつ冷静になって物事を考えて、
次にするべきことも、はっきり決めても居ないし、
何一つ考えてもいない状態だ。
このままで、明日からの私は、いったいどうなるのだろう・・・・
どうなっちゃうのだろうか・・・)
あゆみが、暗い川面をみつめたまま立ち止まってしまいました。
煙草の煙が、あゆみへ届くのを気にしているのか、さっきから康平は、
常に5~6歩ほどの間隔を保ったまま、静かに後ろから歩いています。
立ち止まってしまったあゆみの様子に気がつくと、康平も
その場で歩みを止めてしまいました。
作品名:『夜の糸ぐるま』 10~12 作家名:落合順平