山つつじ
洋平が気づいて「あれっ、どうしたの、あ、ゴメン触られるのイヤだったの」と狼狽しながら言った。
ううん、違うの反対よ、今は胸に抱かれて泣いてみたいのとも言えず、聡子は「何でもないの、ちょっとね」と言ってティッシュを出して涙を拭き、鼻を押さえた。
洋平がティッシュを出して渡してくれたのを受取りながら、聡子は「やっぱりまだ少女かもしれない」と言った。洋平は「そうかあ、乙女ごころかあ。分からないけど、嫌われたんじゃなかったら」と言って間を置き「良かったー」とため息を吐き出すように言った。
それが可笑しくて聡子が笑うと、洋平もぎこちなく笑った。
「じゃあ、この辺でお昼にしよう」と、洋平は少し平らな所にレジャーシートを敷いた。スーパーで、二人で迷いながら、暖めなくても食べられるものと買った太巻き寿司や鉄火寿司などを並べた。缶ビールで乾杯してから食べ始めた。普段独りで食べているので、たあいもないことを話ししながら食べるのは嬉しかった。
「あ、いいですねえ」と言葉をかけながら通り過ぎる人もいる。
お腹がいっぱいになって、聡子はふーっと息を吐いた。それに合わせるかのように山ツツジがかすかに動いた。
(了)