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遊学日記

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ただ前回の旅から学んだ一つの教訓が、旅は前もって計画をしても、実際は計画通りにいかないというものだったので、行きたい場所はざっとリストに上げ、その中の一つにアフリカも入ってきたので、入国に必要な予防接種だけは済ませたりしていた。その程度だけで、細かい計画は何も立てていなかった。ただ現地の人や子供と触れ合い、ボランティア活動など経験しながら世界を自分の目で見て、旅をしたいとは考えていた。
 
ただ実際タイへ到着した私は完全にもてあましていた。去年行ったリゾート地となっている海辺の街や、有名な国立公園にも行ったけれど、去年の様には楽しめず、それは同じ場所とは思えないほどの落差で、訪れた先々の清々しい風をよそに、私の周りにはしらけた空気が漂っていた。そしてあの時はメンバーのみんなと一緒だからあんなに楽しかったのだと始めて気づいた。
去年の旅の経験からタイへの思い入れが強く、まずタイでボランティアをしたいと考えていたけれど、見つかるのは環境ボランティアや、お金を払ってボランティアさせてもらうワークショップしかなく、ピンとくるものはなかった。周りの旅人達も時間をもてあましていて、その気になればいくらでも時間を潰せる娯楽はある。だけどこんなんじゃ日本で遊んでいるのと何も変わらない。
「こんな事がしたくて日本を飛び出してきたわけじゃない。私はもっと現地の人達と深く関われる、そんな旅がしたい。」

そんな思いでいた時、たまたま見ていたウェブサイトmixiの書き込みが目に留まった。
(日本語教師ボランティア募集@カンボジア)

「カンボジアかぁ。」
カンボジアはタイの隣の国で、出発前にどんな国なのかざっと調べてみたけれど特別興味をそそられることはなく、行く予定はしていなかったので、余りと言うより殆どカンボジアについての知識はなかった。ただ日本語教師のボランティアという内容にはとても興味を引かれた。
少し考えた後、このまま無駄に時間を過ごすよりは良いだろうと思い「どうせ隣の国だし。」という結論に辿りついた。
(今タイにいるのですが、書き込みにあったボランティアをしてみたい。) という内容のメールを送った。翌日ネットカフェに行くと、返信は来ていた。
(タッチの差でボランティアを希望する人がいて、もう決まってしまったけれど、どうしてもやりたいのであれば二人で教えるという事も考えてできるかもしれないし、他に孤児院のボランティアを紹介する事も出来ます。) と書かれていた。
「これだ!!」
読んだ瞬間、探し物を見つけた感覚になった。
それは日本語を二人で教えるというものではなく、孤児院のボランティアの方だった。早速その気持ちをメールで伝え、孤児院のボランティアを紹介してもらえる事になった。
そうと決まれば隣国行きのチケットはすぐ手に入る。一週間通いつめた食堂の、タイ語を教えてくれたお兄ちゃんにお別れを言った。

 そんな昨日までの出来事をジェットコースター並みに揺れ動く車内で思い返していた。
気づけば辺りは暗くなっていて、お尻の感覚は完全に麻痺している。
電灯もない真っ暗な闇の中を走る車の先に、小さな明かりの集まりが見えてきた。到着したその町は信号の一つもなく、建物に灯る電気の明るさが全体に暗いせいで、ぼんやりしたゴーストタウンのような印象を受けた。車という名のアトラクションに別れを告げ、舗装のされていない赤土に足を下ろしたその心の中は、これから自分に待っているだろう出会いへの期待と不安で、胸が高鳴っていた。


                
                新たな扉を開くときには
                きっと涙も必要
                その涙は
                希望の光にかわってくれるはず
                
                   一〇〇〇〇日目まで あと四一〇日

作品名:遊学日記 作家名:ともえ