ちーくんと幼馴染
俺が計り知れない羞恥心に見舞われているその原因は他でもない。あの担任のせいだ。
「いいね。その恐ろしいくらいの妄想力を利用してやろう」
「だから、それって一体どういうことだよ」
「つまり、あいつが学ランを着て学校にくる理由を用意してやればいいんだろ?納得できるような」
「それが一番難しいんだよ」
担任の言葉につっこむ。
そう、それこそが一番の難関なのだ。
「まあ聞け」
そういって笑う担任の言葉を聞く前に俺の耳が機能しなくなればよかったのに。
「ちゅーにびょー?」
「頭悪そうな発音だな」
そうバカにしながら紙に“厨二病”と書く。正直“二”と“病”しかわからない。
「簡単に言うと頭の中に馬鹿でかい花畑作ってる連中だ」
「なんだアイツのことか」
とても自然に幼馴染の姿が浮かんだ。
「このカテゴリに属する人間は自分の作り出した架空の設定や世界観にのめり込む」
「あいつが自分を女だと思ってるみたいに?」
「そうだな。わかりやすい例としては自分に特殊な能力が備わっていたり、その能力を政府の秘密機関が監視しているとかそんなだな」
「うわぁ…」
「わかりやすく引いてるがお前の幼馴染はここに属する素質がてんこ盛りだからな」
「だから、だ」と言って本当に人の悪い笑みで宣言した。
「そこを利用する」
担任の考えた作戦はこうだ。
幼馴染の厨二病予備軍な部分をくすぐって利用し、少しずつ幼馴染を外の世界にふれさせるというものである。
そしてこの後、多くの俺のツッコミが入る中、担任は淡々と厨二病について説明しかる計画に必要な設定を考えていった。
ちなみにその必要な設定というのが次の通りだ。
この学校は将来、政府に反抗する組織のために働く人間を養成するための組織の隠れ蓑であり、俺や俺の家族や幼馴染の家族はそういった組織を探るための潜入捜査を主としたエージェントだ。
俺と幼馴染は、今回この学校が組織の隠れ蓑である証拠をつかむために潜入している。
「っていうかなんで家族巻き込んでんだよ。おじさんとおばさんにも口裏合わせるように頼めってか?」
「その必要はない。組織や機関の盗聴の危険性が〜とかいえばこの種は信じるから」
「ウソだろ」
「嘘みたいなことが本当になる。それが厨二病だ。ついでに言うと秘密があった方がこの手は盛り上がる」
説明の為に紙に書いた勢力図とか用語がとても詳しく、正直担任も厨二病とやらじゃねぇのなんて…。
「お前、失礼なこと考えたな」
「さーせん!!」
「さて、それでお前の幼馴染は過保護な親のせいで果たすべき任務を伝えられてなかった」
「あいつの任務は“男装”しての潜入……って、本当にこれで大丈夫?」
「何回もしつこい奴だな。文句は一度試してみてから言え」
そう言う担任の自信満々な顔に「まさかそんな」なんて思いが10割。つまり全然欠片も信じてなかったのに……。
俺はその考えが間違いだったと、すぐに考え直すことになる。
「ま、がんばれ」
そう笑う担任の背に悪魔の羽が見えた。
作戦会議(グッバイ常識。こんにちは羞恥心)end
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