パンダのジョー
「くそ…なぜだ。なぜ俺はお前に勝てない!」言いながらも白熊の口から血が噴き出す。
パンダは一瞬ため息ともつかない息を吐くと、
「…お前が弱いからさ。」と言い捨てた。そして傍らのジュラルミンケースを拾い上げた。
足を引きずりながら立ち去るパンダ。
「あばよ。」
田舎の診療所の手術室。たまらず医師が叫ぶ。「薬はまだかー!」
その時!
診療所の入り口、廊下の突き当たりに逆光で現れる丸い人影?のシルエット。
母親が振り返る。
両開きのドアが開くとそこには!
全身傷だらけのパンダがジュラルミンケースを持って立っていた。
「待たせたな。」ジュラルミンケースがナースに手渡され、ナースは診察室に駆け込んだ。その様子を見届けたパンダは「へへっ…。」と笑ってばったり倒れた。
やわらかい朝の陽光。砂漠の中のオアシスの村でも朝夕は凌ぎやすい気温と日差しに恵まれている。診療所の前にはわずかではあるが芝生がある。その芝生に片膝を立てて座っている絆創膏と包帯だらけのパンダがいた。とりあえず応急処置くらいはしてもらったらしい。
そこへ診療所の中から車椅子に乗った男の子が母親と出てきた。母親はパンダを見とめるとふかぶかと頭を下げた。
「あなたは坊やの命の恩人です。なんとお礼を申したらいいか…」
パンダはにやっと笑うと「礼はいらねえよ。」と手をひらひら振った。
男の子が無邪気に笑う。
「パンダさん、ありがとう!」
男の子の目はきらきら輝き、その顔ははちきれんばかりの笑顔だ。そう、あの日の子供達のように。
「おう、元気になったな。」
パンダは立ち上がり、男の子の頭をくしゃくしゃと撫でる。白熊と決闘していたパンダとは別パンダのような優しい顔をしていた。
「じゃあな。」とその場を立ち去ろうとしたパンダに母親がすがる。
「せめて、せめてお名前だけでも」
パンダは一瞬立ち止まった。
「…俺は…パンダのジョー。」
「ジョー!ありがとう!」男の子の元気な声。
パンダは軽く右手を上げ、振り返らず砂漠へと去っていった。 おしまい。