小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

6枚の花びらと6枚の翼

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 デビストは反射的に光をたどって走り出した。慌てて他の者もついて行こうとしたが、叶わなかった。
「あ、足が動かない……? た、隊長! 待ってください!」
 デビストは引き止める声も無視して奥へと走った。
 進んだ先に見えてきた壁に、光が突き刺さすように当たっていた。デビストが右手で壁に触れると、まるで水のように壁が波打ちデビストを壁の向こうへと誘った。
「っ!」
 デビストが驚きながら壁を通り抜けると、真っ白な空間が広がっていた。
「ここは……」
 デビストが辺りを見回すと、視界の隅に何かが浮かんでいるのが見えた。そちらへ視線を向けると大きな横長の球体が浮かんでいた。驚いて、ゆっくりと警戒しながら近づくとその球体の中で一人の人間が眠っていた。
「この人は……」
『たすけ、て……』
 再び先程聞いた声が脳内に響いて、デビストは目の前の人物を見る。静かに上下する胸に、真っ白な肌、固く閉じられた瞼の端から透明な線が伸びているのが見えた。
(涙? 泣いてる?)
『はやく、だれか……』
 デビストをまるで急かすように声が再び脳内で聞こえた。デビストが球体に手を触れようとした時だった。
―― だめ、起こさないで ――
 制止する声が脳内で聞こえた。先程から聞こえていた声とは別のように思える。小さくて、今にも消えそうな声だ。
―― 君のためなの。ボクを、起こさないで ――
 集中していないと分からないくらい、小さな声。けれど、それはデビストに必死に訴えていた。自分を、起こしてはならないと。
「どっちが、君なんだ?」
 聞こえるか分からないが、デビストは問わずにはいられなかった。ここへいざなった声と先程初めて聞こえた声と、どちらがこの眠っている相手のものなのだろうか。
―― こっちが、ボク。君をここに連れてきたのは…… ――
 声が途切れた。唐突に、まるで電源を急に切ったラジオのように。
「どうしたんだ?」
―― に、げ、て…… ――
 苦しげで、先程より更に小さな声がかろうじて聞こえた。
『はやく、はやく、たすけて』
「お前は、誰なんだ? この人に何をしたんだ?」
『この人って、だれ? わたしは、わたしだよ?』
 最初に聞こえた声が主張する。視線を目の前の人物に向けると、苦しげに眉間に皺を刻んでいる。唇を僅かに開いて何かを言おうとして、言えないでいる、そういう風に見えた。
 デビストは周囲へ視線を巡らし、この声の主がいないか気配を探る。
「どこにいるんだ、お前は! 出てこい!」
『ここに、いるよ』
 デビストの問いに、相手は球体を光らせる。あくまでも白を切るつもりらしい。
「……お前の目的は、何だ? この人を俺に助けさせて何がしたいんだ?」
 無音。この問いには答える気が無いのか、急に黙りこくってしまった。
(さっき、この人は逃げろって言った。だけど)
 逃げようにも何処が出口なのかさっぱり分からない。分かったとしても、出ることが可能なのかどうかも。
「こそこそしてないで、出てこい! お前は一体」
 デビストが言葉を言い終わらないうちに、それは起こった。
「っ!」
 突然金縛りにあったように、身体が動かなくなり、デビストは自分で動くことができなくなった。
(どうなってる? うっ!)
 激痛が走り、デビストの身体は針金でも通されたように腕と足がぴんと伸ばされ、勝手に動かされる。何とか自分でコントロールしようとしてみるが考えとは裏腹に、デビストの身体はゆっくりと確実に球体へと向かっている。そして、ゆっくり右手が球体に触れようとした。
(くそ、身体が……!)
 右手を止める術が分からず、デビストの指先は球体に触れた。薄い膜を破ったような感覚がした瞬間、光が波のように球体からこぼれ出てその勢いは増していく。
「……っ」
 光は七色へ変わり、デビストを包む。それは、とても暖かくて
(苦しい……息苦しいっていうより何だか、すごく心が)
 自然と目尻から熱い滴があふれ出る。苦しさを追い出すことをデビストの身体と心が望んでいるように。それが防衛反応のように。
 光の洪水から、空中へ浮かび上がったのは先ほど球体に閉じ込められていた人物だった。橙色の髪に、幼さの残る顔、ゆっくりと開かれた大きな赤みをおびた橙の瞳。その瞳に浮かんでいたのは、苦しげな影だった。
「……あ」
 デビストが声をかけようとした瞬間、橙色の瞳の人物は真っ白な手をデビストへ向けてきた。その手が一瞬だけ光った瞬間、デビストは頭を殴られたような感覚を覚える。
『なにをしている!』
 デビストが地面に身体が落ちたと思ったと同時に脳内に響いたのは怒りとも悲しみともとれるほど激しい感情に満ちた声だった。自然と落ちてくる瞼が光をとらえきれなくなる最後の瞬間、鼓膜が別の声を聞き取った。
「デビスト、次に会ったらボクを、殺してね。きっとだよ。ボクのことを覚えていても、いなくても、必ずね」
 理由を問う暇も無く、意識が闇に沈んで行った。
作品名:6枚の花びらと6枚の翼 作家名:茶甫