漢字一文字の旅 二巻 第一章より
三の一 【巣】
【巣】、木の上に雛(ひな)がいる象形だとか。
そう聞かされれば、そのように見えてくる。
そんな【巣】、
「源氏物語」54帖の後が『巣守帖』(すもりのじょう)と言うらしい。
いわゆる「宇治十帖」の続編だとか。
「宇治十帖」は浮舟をめぐって匂宮と薫が争う。だが誠実な薫が敗れる。
しかし、浮舟は恋の波間に揺れて宇治川に身を投げる。そして僧に助けられ、小野の尼寺に籠もってしまう。
物語にはその後はなく、中途半端な所で終わる。
そのため後世の鎌倉時代に、浮舟に思いを寄せた誰かが……。
いや、そのイッチョカミが……「その後物語」を書いた。
すなわち「宇治十帖」の外伝だ。
それが『巣守帖』(すもりのじょう)と呼ばれ、最近発見された。
うーん、『巣守』とはね。唸ってしまう。
まさしく巣守とは孵化(ふか)せず巣の中に残っている卵のこと。
「宇治十帖」は完結していない。
それはまさに孵化せず巣の中に残っている卵、つまり巣守のようなもの。
したがって、なんとか孵化させてやりたいと思ったのだろうか?
それともその実態に鑑みて、自虐的にその物語を「巣守帖」と名付けたのだろうか?
しかし、その作家は結構手強いやつかも。いや、それともかなりのイッチョカミかな?
なぜなら、未だ孵化していない「宇治十帖」、いちびりな鮎風遊も完結させたいと思いました。
そして書きました。
恋の波間に揺れたヒロイン・浮舟の……その後を。
しかも調子に乗って現代風に。
それが『 いまどき(現時)物語 』です。
http://novelist.jp/work_list.php?user_id=29298&page=3
ひょっとすれば、鮎風は「巣守帖」の作家と同じイッチョカミのDNAなのかも。
作品名:漢字一文字の旅 二巻 第一章より 作家名:鮎風 遊