「哀の川」 第三十五話
程なく病院に着いた。走るようにして二人は中へと入り、居場所を聞いた。今は集中治療室に入っているから、待合で待つようにと言われた。母がいた。純一もいた。二人を見つけると、すぐに直樹に母はしがみついてしまった。その仕草で父がどうのような状況なのかすぐに判断できた。
「母さん・・・元気出して!父さん頑張っているんだから、しっかりとしてなきゃ、だめだよ。みんなついているから。姉さんも、純一も、ボクも」
母親は言葉にならない嗚咽と共に泣き崩れた。ずっと我慢してきたから、今はどうしようもなく気持ちが高ぶってしまった。
四人の前に看護士が来て、こちらへどうぞと呼ばれた。小さな個室の前に医師が立っていた。
「最善を尽くしましたが・・・残念です。午後5時15分、お亡くなりになりました」
くも膜下出血と言われた。運ばれてすぐに手術を試みたが、手遅れで手術中に心停止になったと説明を受けた。あっけない最後になってしまった。気が抜けた母親は、立っている気力もなく、医師に相談して、点滴を受け、ベッドで休ませてもらった。残った三人はこれからのことを相談しなければならなかった。
作品名:「哀の川」 第三十五話 作家名:てっしゅう