神ノ王冠を戴きし者
『第一話 廻り出した歯車』
──神創世界。それは万物全てを統べる奇跡の断片《魔力》とその《魔力》を長き年月を得て吸収した結晶《魔晶石》が世界に広がる神々が産み出した世界。
そして人々は《魔力》を使い、万物を、事象を改変する力《魔法》を手に入れ《魔晶石》は加工され《魔神機》を作り上げた。
『そして世界は狂い始めた。』
世界には混沌を司る神々《禍神(マガツカミ)》が現れ、人々の住む場所は禍神の眷属《禍人(マガツヒト)》により混沌の渦と化した。《禍神》達は秩序を司る神々が産み出した世界と人類を嫌い、《禍人》を従わせ破壊しようとした。その危機を感じた秩序を司る神々は禍神を殺し、十人の選ばれし人間《使徒》の中に禍神の力《神冠》として半分を封じ、もう半分を次元の狭間へと閉じ込めた。しかし禍神は次元の狭間から逃げ出したのだ。これにより使徒と禍神の戦いは始まった。
そして戦いは少年や少女達を巻き込み、激化して行く……。
◆◆◆
ある少年は見下ろした。地面は紅に染まっている。
少年は異様な姿をしていた。
右手には鈍り輝く漆黒の刃を持つ片手剣を、
左手には透き通る白亜の刃を持つ片手剣を握っていた。そして『漆黒の翼』を持つ彼の頬には一筋の涙と……赤黒い『血』が付着していた。
──突然ある少年はベットから起き上がった。彼はいつの間にか頬に流れていた一筋の涙を手の甲で拭いながら、時計へと目を向けた。時刻は6時ジャスト。彼はそのまま起き上がり壁に掛けてあるYシャツに袖を通した。未だに開けていないカーテンからはうっすらと温かな光が漏れだしている。彼もカーテンを開けていない事に気づくと、開け放つ。彼は温かな光を浴びながら服を着終わると丁度チャイムが鳴り響く。
「は~い!! 」
彼は聴き心地の良いアルトに近い声を響かせるとドアを開け放った。するとそこには肩に届く位まで伸ばした茶色の髪に透き通る様な焦げ茶色の瞳を持ち、彼と同じ学院の制服に身を包んだ少女が立っており、二人はお互い微笑んだ。
「おはよう、レオン!! 」
「おはよう、アスナ。」
彼……レオン・アルゲリードは少女……アスナ・エクシオンを部屋の中へと誘う。アスナはそれに嬉しそう頷き、中へと入った。二人はリビングまで来るとレオンは珈琲を入れ、アスナはテーブルに持参したバスケットを置く。二人が席に着くとアスナはバスケットに掛けていた布を剥ぎ取った。そこには美味しそうな匂いを漂わせるサンドイッチが入っていた。二人はサンドイッチを手に取ると世間話を始めた。
「レオン、美味しい? 」
アスナは微笑みながらレオンに問いかけた。
「ああ、美味いよ。やっぱりアスナの料理は一番だよ。」
レオンも微笑みながらサンドイッチを食べ進める。
「そんなに喜ばれると次も張り切っちゃうよ~! 」
二人はにこやかに朝食を済ますと珈琲に口を付けた。
「そういえばアスナ。今日は模擬戦があるんじゃないか」
「そうだった!『アレ』が来ないか心配だなぁ。」
「だよなぁ……。」
……そして二人が通う学院『魔導科エルニア王立高等学院』は王宮魔導師または実践魔導師の育成を中心に行っている。そして入学式を終えた次の日には『魔神機』製作と模擬戦をする事になっている。
アスナとレオンはカップとバスケットを片付け、用意を済ますとアスナはレオンに向け満面の笑みを浮かべる。
「さぁ、行こう! 」
「そうだな、行こうか! 」
そういうと二人は鞄を手に取り部屋を後にした。
◆◆◆
レオン達が通う『エルニア学院』はケルネス大陸の首都である『エルニア王国』お抱えの教育機関だ。その膨大な敷地の中には闘技場、体育館、校庭ましてや商店街や寮などの数多くの設備を持つ。
そしてレオンとアスナが自分たちの教室がある階層へとたどり着いた時だった。
「おーーーい!! アスナ! レオン! 」
「「? 」」
一人の少年の声を聞いた二人は振り向くと、赤毛に深緑の瞳を持つレオンの数少ない友人……ケビン・アルビオンが走ってきた。
「よ! 相も変わらずラブラブだなぁ! 」
そう言うケビンにレオンは反論しようと口を開く。
「あのなぁ……。」
しかしその反論は隣のアスナせいで儚く崩れ去った。
「ウフフフ、いいでしょう~!! 」
そのアスナの自慢? を聞いたケビンは何故かレオンに話を振った。
「クソぉ~! レオンめぇ!! 」
するとレオンはさっきとは違い鋭いツッコミを繰り出す。
「何故に俺に振る!?」
笑いあうアスナとケビンに溜め息を一つ付いたレオンは辺りを見回し、アスナに小声で言った。
「……アスナ、そろそろ離れろ。」
そう言われたアスナは首を傾げた。
「? 、何で? 」
首を傾げるアスナにレオンは声を潜めた。
「周りを見ろ、周りを……。」
レオンが校門を潜った瞬間から続く鋭い、軽蔑や嫉妬を含む冷たい視線。それはケビンでもなく、アスナでもなくレオンだけを捉えていた。その理由は明白だった。レオンは『通常の状態では中級魔法以上の詠唱破棄を使えない。』だが、この学院の入試では平均点97点以上と言う、いわば《劣等生》なのである。それとは違いアスナは実技と筆記両方とも良くその容姿から他の男子に好意を持たれている。だがアスナは必ずと言っていいほどレオンの所にいる。それが他の男子がレオンに向ける冷たい視線の意味だ。
そんな言葉を言ったレオンに向けてケビンは首を傾げた。
「レオンはこの視線を気にしてるのか?」
するとレオンはあっさり首を横に振った。
「いや、別にこういう視線は慣れっこだが、アスナを悪くみる可能性が……。」
「おー! 流石レオン。綺麗な位にアスナに執着してるな! 」
そう言うケビンにレオンは冷たい言葉を発した。
「ケビン、お前とはしっかりと話さないといけないな……。」
レオンとケビンが満更でもない言葉の戦いをしているだなと、突然アスナは瞳の中に『悲しさ』を少しだけ含ませながらレオンに飛びつき、ケビンにも聞こえない小声でレオンに話しかけた。
「それは無理なお話だよ~、レオン? だってアウラさんとの約束だからね! 」
するとレオンは少し驚きながらアスナを見た。
「母さんとの約束まだ守ってるのか? 」
それに対してアスナは満面の笑みで答えた。
「もちろんだよ!!それにレオンの事は世界で一番好きだからね! 」
するとレオンの頬が次第に赤面してくる。
「な、こんな場所で何言ってるんだよ!? 」
アスナとレオンが小声で話している間ケビンは……
「グスン……。いいんだ、どうせ俺なんて……。」
レオンとアスナが生み出した雰囲気に飲まれ、いじけていた……。