過去をビールに流す
おれがまだ痛む目をどうにか開けて母を見ると、彼女は「今日はこれがいいたかったの」と笑みを浮かべてから、足早に去っていった。
おれは茫然とその場に立ちすくんで母の後ろ姿を見送った。それから何だかおかしくなってきて、声を上げて笑った。通夜に来ていた兄の友人たち、おれと兄の家庭環境を知る彼らも、つられて笑いながらおれにタオルやハンカチを差し出してきた。
こんなにも爽快な気分は味わったことがない。おれは近くのテーブルに置かれていたビール瓶を手に取りラッパ飲みをして、それからまた笑った。