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山本ペチカ
山本ペチカ
novelistID. 37533
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ウロボロスの脳内麻薬 第六章 『GOD&SPELL』

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「お前たち子供はな、何か困ったことやわからないことがあれば真っ先に大人を頼っていいんだよ」
「え? それってどういう──」
「そんなこともいちいち訊かないといけないほど、お前のまわりには頼れる大人がいなかったってことだ。たった一言でいい、自分の気持ちを言ってみろ。いいかよく聞け〝You are loved〟──お前は愛されている」
唐鍔牧師はハッカの頭に手を載せた。
「笑ったり……しませんか?」
 ハッカはそう、上目遣いで言った。
「言ってみろ、まずはそこからだ」

 ハッカは《ブレインジャック事件》とかかわる前の自分、そして変わってしまった今の自分に困惑していることを、とつとつと語った。
「そいつは所謂、自我同一性の拡散というやつじゃないか」
「ジガドウイツセイのカクサン?」
「自分で自分がわからないってことさ。ここにいるわたしは、本当にわたしという存在なのだろうか、って。ま、アイデンティティって言った方がわかりやすいか」
「アイデンティティ……」
 そんなこと考えもしなかった。空っぽのままでも生きていけたから。
「お前はさ、息をするのにも意味や理屈がいるのかい?」
「それは……」
「生きるなんてそんなもんだろ。神の御告だ使命だなんだと恥ずかしげもなく喚くクリスチャンが言うことじゃないけどな」
「でも!」
 辛いんだよ!
苦しいんだよ!
でもなにも変わっちゃいないんだ。空っぽなのは前も今もおんなじだ。
ハッカはそのままうずくまった。
「わからないのがそんなに不安か? そんなに答えが欲しかったら探せばいい。見つからなければ作ればいい。形がわからなきゃ横を見ろ。頼る相手なんてのは、存外多くいるものさ、望むと望まざるとにかかわらず、な?」
「社長」しゃがんで膝に顔を埋くめるハッカに唐鍔牧師はかがんでのぞき込んだ。すると、「うわっ!」
 彼女はハッカを肩車にして担ぎ上げた。
「〝You are loved〟──お前は愛されている。この世界そのもの、福音(ゴスペル)にだ! 見ろ、麦村。この光景を」
 空の青を写した青い海が、渺々と広がっている。遠く太平洋の向こうでは茫漠たる入道雲がそびえている。
「神の声(ゴスペル)、すなわち〝God(ゴツド)&Spell(スペル)〟だ。わたしだって所詮はただの量産型さ、どこぞの自称預言者みたく神の声なんて聞けやしない。けどな、この最高にクールな神(アーテイスト)の芸術作品に感動するだけで、わたしは声が聞こえた気になれるよ。自分が独りぼっちじゃないって気づくんだ。
 その言葉こそが〝You are loved〟。
まっ、答えばかり求めていても疲れるだけさね。それに、こうやって悩み考えることに意味もあれば価値もあるかもしれないだろ。
だから元気出せ、なっ?」
何かが胸の奥から込み上げた。熱くて、とても大きいなにかだ。