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山本ペチカ
山本ペチカ
novelistID. 37533
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ウロボロスの脳内麻薬 第二章 『ケータイ交霊術』1

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 ─────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────。
「……はぁ、……はぁ、……はぁ、」
 いったいどけだけの時間が経ったんだろう。そんなを考えながら、儚は机の上のティッシュを四枚ひき抜いた。
「──あ」
 そしたら丁度、ティッシュの箱は空になった。
 カラカラという音が、口から零れる重い吐息といっしょになって……部屋の中で残響する。それが、儚の心(キモチ)を無性に惨めにさせた。

† † †

 儚が用意した料理を食べ終えたハッカは、砂糖とミルクありありのインスタントコーヒーを啜りながらリビングのソファーに腰を降ろした。その身が深く、ゆっくりとソファーに沈んでいく。四肢を大きく開き、全身で大の一文字を形作る。だらりとソファーに首をあずけていると、自然、顔が真上を向く。そこで視線がいき着いたのは天井という名の袋小路。
どうしようもないほど狭くて小さいこの部屋そのものが、少年(ハツカ)の一日に重たい緞帳幕を落とす。
 これ以上は意味がない。
 それ以上は価値などない。
 あれ以上は何もない。
 閉ざされた箱庭の限界は、子供にとって絶対不可避な家という現実。
 首からさがった革紐と鍵はさしずめ、抗いようもない檻にくくりつける首輪と鎖。
 縛られた日常は自身が縛られているという自覚すら剥奪し、その身に足枷がくくられていることさえ忘れさせる。いつの間にか鎖や錘の重さの感覚さえ感じなくなってしまう。
 鈍麻していく頭は、真綿で少しずつゆっくりと、しかし確実に締め続けられているから。
「それが何だよ」

 ──そんなの、当たり前じゃないか。

 子供はみんな、縛られている。
 それが生まれた時から続いているからこそ当たり前。
 身近に親のいないこの少年も確実に子供という大枠にはめられ、埋没している。
「ああ、そうだここはきっと、」

 ──暗く冷たい墓土の中。
 ──生きながらにして、たぶんぼくは死んでいる。

 乾いてくぐもった笑いが、口から零れた。
「誰かぼくを……ここから出してよ」
 何とは無しに出てきた言葉は天井まで届いたが、けれどすぐにぶつかりハッカの頭に落ちてくる。すると同時にピー、ピーという電子音が耳朶を打った。
 億劫そうに首だけ上げると、そこには充電を終えた携帯電話があった。帰りがけに拾った落し物だ。
「……ふん」
ハッカは携帯電話を手に取り、おもむろに顔の前まで持ってくる。天井をバックに胡乱な眼差しが向けられる。
カチリと、二つ折り携帯を開く。
そこにはすでにあの赤い鳥居が投影されている。
中央キーが光る。
ハッカはそこへ親指を当てた。