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アイラブ桐生 第4部 最終回

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 「それからだぞ。
 この二人に難儀がはじまったのは。考えてもみい。
 勉強もせえへんで仕事もほったらかしたまま、
 実家の金にまかせて相変らず祇園で、遊び三昧の日々だ。
 そのあげく、当然のこととして親からは、ほかされることになる。
 それもまた、ごく当たり前と言える仕打ちで、
 誰が聞いてもそう言う羽目になる。
 親からの絶縁状がこいつに届いて、実家の家業が傾く前に、
 放蕩息子は、家から追い出されることになった。
 こいつが、30歳半ばの時だ。
 そん時の小春は、20歳をすこし過ぎたばかりで、
 芸妓としての人気は、絶頂期だった。
 器量は良いし、芸はなんでもこなせて、そのうえ気だてが良い。
 京都の五花街を探したって、これほど条件の整った
 芸妓はめったにいない。
 こんな甲斐性なしのこいつには、小春もたいして別れることに、
 未練も何も持たないだろうと、実は、
 俺もお千代もタカをくくっていた。
 ところがだ、必ず帰ってくるから俺を信じて待っていろと、
 たった一言だけを言い残して、こいつは京都から、
 あっというまに、さいならをした!」



 2杯目のコップ酒もまた、
源平さんは一息で飲み干してしまいました。



  ※京都には、
 島原、上七軒、祗園甲部、祗園東、先斗町、宮川町の
 6つの花街が存在し、「六花街」と称されて、
 京文化の一翼を担ってきました。
 現在は、茶屋営業がなくなった島原を除いて5ヶ所となり、
 「五花街(ごかがい)」と呼ばれています。




 「小春も、小春だ。
 旦那の話は相変らず断り続けて、
 言い寄って口説く男には見向きもせずに、
 一人身を通して続けて、それから10年も待ち続けた。
 一口に言うが10年だぞ、10年。
 女の10年だ。
 女が一番いい時期を、小春は平然と棒にふった。
 10年間も平然と待たせた挙句、
 こいつはふらりと祇園に舞い戻ってきた。
 祇園に戻ってきたものの、今度は此処で天ぷら屋なんぞを始めた。
 まぁ食えれば、仕事なんか、なんでもいいさ。
 それで小春のことが、なんとかなるのかと思っていたら
 それもまた、どうにもならず、また相も変わらぬ昔のままだ。
 こいつと小春は、着くでもないし、かといって離れる訳でもない。
 周囲をやきもきさせたまま、所帯を持つわけでもなく、
 別れるわけでもなく、それからまたまた、
 足かけで10年近くが経っちまった。
 ええ加減にせいよ、まったく。
 可哀想だろうよ。小春が」



 壮絶な話です。
あの日垣間見た仲のよさそうな
二人の姿からは、想像もできない話でした。
始めて聞かされた、順平さんの生き様と、
小春姉さんの哀しいまでの恋ごころです。
3杯目をコップに注いでいる順平さんがようやくのことで、
静かに口をひらきました。




 「いまさら所帯なんぞはもてないが、
 それでもいいのかと小春に聞いたら
 それで良いと、あいつは俺に言いきった。
 お互いに長い間にわたって意地を張リ続けてきたんだ。
 当然ともいえる結果だろう。
 俺も、実家をはじめ、祇園にも多くの迷惑をかけ過ぎてきた。
 そいつは、小春だって同じことがいえた。
 祇園にも、女将さんにも、多くの贔屓(ひいき)筋にも、
 長年にわたって、迷惑をかけてきたんだ。
 俺たちは二人して、ずいぶんと、あちらこちらに迷惑をかけてきた。
 いまさら、二人だけで良い思いはできへんやろう、と言う話になった。
 俺も一人身で過ごすが、小春も一人身のままだ。
 祇園に居て、近くに住んでいられるというだけでも、充分な話さ。
 お互いに、祇園で世話になって、食っているんだ。
 もう、これ以上のことは、望めん。」



 沈黙が訪れてしまいました。
3杯目のコップをつかんだまま、源平さんは固まってしまいました。
順平さんが、目を伏せたまま、静かに盃を口元に運んでいます。