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アイラブ桐生 第4部 最終回

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 「勉強はおろか、仕事もまったくせえへん。
 それでいて祇園にいりいびたりで、遊び三昧でほうけておった。
 俺がお千代と所帯を持ち、娘が生まれた頃になっても、
 こいつは、まだ遊ぶほうけている有り様だった。
 まだ祇園には、「学校行きさん」が沢山いたころの話だ。」



 学校行きさんというのは、
祇園から中学校へ通いながら舞妓の修業を始めた
少女たちのことです。
「仕込み」や、「おちょぼ」などとよばれ、
10代前半の少女たちのことを指しています。

 小学校を終わったばかりの
少女たちが、祇園では舞妓の修業を始めるのです。
舞妓の生命線は『おぼこさ・幼さ』に尽きますので、
必然的に少女たちの時代が祇園では『旬』になります。


 「そんなかの一人に、いまの小春がいた。
 最初は目立たなかったが、「学校いき」の頃から、こいつが
 なにかにつけて、よく面倒をみていた。
 まるで妹のように、なにかにつけて世話もやいていたようだ。
 小春は筋がよく、舞も三味線も器用にこなして、
 舞妓になっても評判になり、
 あっというまに祇園いちといわれる、売れっ子舞妓に成長をした。
 小春は、器量も良かったが、心根はもっと良かった。」



 小春姐さんの艶やかな赤い唇と、
妖艶でいながら、なぜか涼しささえ感じさせる
あの、凛とした美しい目元を思い出しました。
すらりとした華奢な外見とともに、優雅な身のこなしが
とても印象的に残る、和服が似合ういかにも京都らしい
おちついた美人です。



 「年中走り回っていた「おちょぼの時代」の小春に、
 こいつは妙に優しかった。
 最初は年の離れた妹くらいにしか思っていなかったのだろうが、
 小春の方がいつもまにか、勘違いをしていたようだ。
 舞妓から芸妓になると、あの当時は、旦那の話が持ち上がる。
 いくら芸妓で一生を過ごすと言っても、
 花街で生き抜いていくためには
 心強い後ろ楯ともいえる、旦那の存在は不可欠だ。
 それは、祇園に限らず、花街で生きている女なら、みんな
 暗黙のうちに了解をしている、
 生きていくうえでの『しきたり』だ。
 ところが、小春の場合だけがそうは、事が進まなかった・・・・
 いくら勧められても、小春は旦那をつくらない。
 祇園いちの人気芸妓とあれば、
 引き受け手はあまたに殺到をしてたはずなのに、
 いくら良い話が舞い込んできても、
 頑として小春は首を縦には振らなかった。
 なにかにつけて小春の面倒を見ていたお千代が心配をして、
 ついに、膝詰めで問い詰めたことが有る。
 『小春ちゃん、あんた、芸妓が旦那を持たずにどうしはるん?』
 っとな。」



 そこまで一気に説明した
源平さんが、そこまで語って一息をつきます。
コップに酒を自らつぎ込むと、それをまた水のように
一気に飲み干してしまいました。



 「そしたら、小春の奴、なんと返答をしたと思う。
 驚いたことに、すでにもう、
 小春はそん時からこいつにゾッコンだった。
 何を勘違いしはったんだろう・・・・
 と、お千代も途方にくれてしまった。
 俺もそれを聞いて、心底びっくりした。
 まさに、ヒョウタンから駒だ」


 ドンと置かれた源平さんのコップへ、
二杯目となる酒を、苦笑しながら順平さんが注いでいます。