アイラブ桐生 第4部 54~55
しかしこの日は、
それだけでは話が終わりになりません。
珍しいことに遅い時間になってから、
今度は、源平さんがお店に顔を出しました。
だいぶ酔っていますが、
なにやら順平さんに用事がありそうな気配がします。
私の顔を見るなり、源平さんが呼びとめます。
「ちょうどええ。お前も残れ。一緒に呑もう」
順平さんは暖簾をかたずけて、
店じまいの支度をはじめています。
カウンターに陣取った源平さんは、眠そうな目をしたまま、
かろうじて両肘を突き、そんな順平さんの素振りを眼で追っています。
「例の用件か?」
「それしかないだろう・・・・
こんな時間に、お前に会いにくるのは」
「せやな・・・それしかないなぁ。
あ、君もそっちはええから、
そのあたりに適当に座ってくれ。
源平が言うように、一緒に一杯やろうじゃないか。
俺も君には、世話になった。
3人で、しみじみやるのもええやろう。」
「お前たち。
この間、鞍馬でばったり行き会ったんだって。
そやさかい、もっと遠くに出掛けろと、
あれほどいつも言っとるんや。
たまにしか逢えない機会だというのに、
周りに神経ばかりを使わせていたのでは、
小春も、ゆっくりでけへんだろう。
それじゃあ、小春が、あまりにも不憫で、
可哀そうだというもんだ」
「小春が、それでもええと言いだしたことだ。
どうしても鞍馬へ行きたいって言い張るから、しょうがなしに
出掛けただけの話や。
そしたら、ばったりとこいつ達と、
鉢合わせをしょっただけや」
小春さんと順平さんの込み入った話が、
なにやら熱っぽく展開しそうな気配がします。
ただならない気配が漂う中で、熱燗の用意もできて、やがて、男3人による
深夜の酒盛りが始まりました。
作品名:アイラブ桐生 第4部 54~55 作家名:落合順平