アラクノフォビア
気付くと、私は道端で女の子に泣きついていました。白いワンピースが可愛らしい、私のお友達に抱きついていたのです。
どうやって雑木林から抜け出したのか全然記憶にありません。ただ、傍にいる彼女が安心をくれました。私にはそれだけで十分でした。
たまたま通りがかっただけの彼女が、事情も何もわからないはずなのに、それでも黙って私を抱きしめてくれていたのです。暖かくて嬉しくて、私は涙が止まりませんでした。偶然居合わせただけの彼女が、私には救世主に見えたのです。いいえ、天使のほうが可愛らしいのでそちらにしましょう。
きっと、私はそのとき彼女に恋をしたのです。
そして、同時にクモが憎らしくなったのです。
「……クモなんて」
嫌いです。
そして今、掃除中、校舎のすぐ傍にある木々と植え込み、その一角にクモの巣とその主であろうクモを見つけてしまいました。
苦々しい記憶を辿りながら私は、手に持った箒を落とし、クモへと手を伸ばしました。
「ねえ、どうしたの?」
と、少し離れたところからから声をかけられ、びくりと、向き直りました。そこには、私が恋する彼女が立っています。
「もう、掃除終わったでしょ」
「ええ、ただここにクモの巣があったので」
ほんとに、と声を高くし、彼女は笑顔で近づいてきます。私は右手を握り締め、左手で巣を指差しました。
「クモは?」
「いませんでしたよ」
「そんなぁ」
「残念でした」
本当に残念そうな彼女を見ていると、私はどうしてももやもやとしてくるのです。
そんなもやもやしたものが不愉快で、だから私は、右手を強く握り締めるのです。
やっぱりクモなんて、大嫌いです。
おわり