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『喧嘩百景』第5話日栄一賀VS銀狐2

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 ――こいつら、何で。
 ぜい、と喉が鳴る。
 一賀は裕紀の身体に手をついて咳き込んだ。
 「日栄さんっ」
 浩己は跳び起きて一賀に駆け寄った。
 ――無茶だ。二日前に心停止を起こしたばかりなのに。
 同じ人間にそう何度も死なれてたまるか。
 「ごめん、大人しくしててくれ」
 浩己は腕を振り上げた。
 首筋を狙って。――眠っててもらう。
 一賀はゆっくりと浩己の方へ顔を向けた。
 彼を見上げてにっこり微笑む。
 ――いけない。スピードが、鈍る。
 浩己は無駄とは知りつつ目を閉じた。
 「甘いよ、浩己」
 腕が空を切る。
 声と同時に一賀の拳が鳩尾に叩き込まれた。
 ――力のない、拳――。
 恐る恐る目を開ける浩己の腕に一賀の小さな身体が倒れ込んでくる。嫌になるくらい軽い。――「最強」と呼ばれる力が彼の重みだったのに。「最悪」と呼ばれることが彼の強さだったのに。――この身体じゃもう無理だ。
 浩己は一賀を抱き上げた。
 「弱い奴は…いらない」
 彼の腕の中で最強の少年は目を閉じた。
 ――弱い、か。なら、なってやろうじゃないか、強く――――。
 裕紀が身体を起して浩己を見上げる。じんわりと痛みが伝わった。
 「俺たち」
 「甘いな」
 双子は顔を見合わせて溜息を吐(つ)いた。