バックスぺース
いつの間に、こんなところにまで来てしまったのだろうか。
目を閉じても閉じなくても変わりのない、ただ自分の眼球だけの存在を感じる暗闇の中で、自分が何を求めていたのかを思い出す。ここは、紛れもない、宇宙の隅なのだ。
僕は、何をしにここに来たのだろう。決して、ポジティブな理由ではなかったと思う。しかし、熱を帯びた理由であったはずだ。そうでなければ、僕の心臓がこんなにも早く脈打っている訳がない。こんなに痛みを伴っている訳がない。
ならば、どうしてこんなにも体は冷めきっているのだろうか。体温だけではない、内臓も、その奥にあるはずのこころと言うものも、思考を拒むかのように凍えている。こころと心臓は別物だったのだ。僕は今だけデカルトに同意したい思いだった。
光など届かない、絶対零度の空間には、あるべき気体すら存在しなかった。シャルルの法則は間違っていなかったのだろう。肺いっぱいに空気を取り込もうとしても、肺胞はひしゃげたまま仕事をしようとしない。声を出そうとしても、声帯の震えを伝える媒質を持たない。
全ての理由はここに完結する。ーーここは、宇宙の果てなのだから。
息もつけない、何も見えない、もちろん聞こえもしない。そんな場所になにかがあるというのだろうか。……そんなことはない。僕は何もない場所に来たかっただけなのだ。ここになにかがあって欲しい理由など、僕には心当たりがない。僕は、彼女のいない場所に行きたかっただけなのだ。
ただただ、怖かった。生まれたての恒星のような青白い光を放つ彼女に愛されないことが、僕は身勝手ながら、死ぬより怖かった。その光は全方位に向けられていて、とても僕一人で包み込めるような明るさじゃない。いくら僕が暗くても、彼女の光は両手両足に余るほどだった。影の薄い僕に、影を作ってくれた光は、紛れもない、彼女自身だったのだ。
その光は、次第に僕を曇らせた。なんてことはない、ただの独り善がりだ。僕は一人前に嫉妬することを覚え、彼女が近くにいない状況を「寂しい」と形容するようになった。そんな自分に最も驚いたのは僕だったので、彼女にその変化を悟らせることはなかった。
その驚きから僕は次第に自分の感情や衝動が恐ろしくなり、その根源が彼女にあることに気がついた。そうして僕は、ひたすら彼女から自分を遠ざけたのだった。彼女から与えられる愛が、僕には何より恐ろしく感じられた。
目を閉じても閉じなくても変わりのない、ただ自分の眼球だけの存在を感じる暗闇の中で、自分が何を求めていたのかを思い出す。ここは、紛れもない、宇宙の隅なのだ。
僕は、何をしにここに来たのだろう。決して、ポジティブな理由ではなかったと思う。しかし、熱を帯びた理由であったはずだ。そうでなければ、僕の心臓がこんなにも早く脈打っている訳がない。こんなに痛みを伴っている訳がない。
ならば、どうしてこんなにも体は冷めきっているのだろうか。体温だけではない、内臓も、その奥にあるはずのこころと言うものも、思考を拒むかのように凍えている。こころと心臓は別物だったのだ。僕は今だけデカルトに同意したい思いだった。
光など届かない、絶対零度の空間には、あるべき気体すら存在しなかった。シャルルの法則は間違っていなかったのだろう。肺いっぱいに空気を取り込もうとしても、肺胞はひしゃげたまま仕事をしようとしない。声を出そうとしても、声帯の震えを伝える媒質を持たない。
全ての理由はここに完結する。ーーここは、宇宙の果てなのだから。
息もつけない、何も見えない、もちろん聞こえもしない。そんな場所になにかがあるというのだろうか。……そんなことはない。僕は何もない場所に来たかっただけなのだ。ここになにかがあって欲しい理由など、僕には心当たりがない。僕は、彼女のいない場所に行きたかっただけなのだ。
ただただ、怖かった。生まれたての恒星のような青白い光を放つ彼女に愛されないことが、僕は身勝手ながら、死ぬより怖かった。その光は全方位に向けられていて、とても僕一人で包み込めるような明るさじゃない。いくら僕が暗くても、彼女の光は両手両足に余るほどだった。影の薄い僕に、影を作ってくれた光は、紛れもない、彼女自身だったのだ。
その光は、次第に僕を曇らせた。なんてことはない、ただの独り善がりだ。僕は一人前に嫉妬することを覚え、彼女が近くにいない状況を「寂しい」と形容するようになった。そんな自分に最も驚いたのは僕だったので、彼女にその変化を悟らせることはなかった。
その驚きから僕は次第に自分の感情や衝動が恐ろしくなり、その根源が彼女にあることに気がついた。そうして僕は、ひたすら彼女から自分を遠ざけたのだった。彼女から与えられる愛が、僕には何より恐ろしく感じられた。