【無幻真天楼 第十二回・弐】ハリスのハリセン
「慧喜ーおーいッ;」
ドムドムと襖をたたく京助の腰には悠助そして隣には緊那羅
「カキ氷食わねぇのかー?」
その問いにも何も返事はなく京助がため息をつく
「…慧喜…」
緊那羅が慧喜の名前をつぶやいた後悠助を見下ろした
木製の廊下がキシキシと鳴りその音に京助と緊那羅、そして悠助が顔を上げた
「お…こんが…」
「慧喜」
やってきたのは矜羯羅と制多迦
矜羯羅が京助の呼びには向かず襖へと声をかけた
矜羯羅の呼びかけからいくらかしばらくの間
セミの声が開けた窓から風と共に流れ込んでくる
もう一度名前を口にしようとした矜羯羅がそのまま言葉を出さずに口をつむんだ
スー…っと襖が開いた
「せんせーにみえねぇせんせー…カキ氷食う?」
南がブルーハワイのかかったカキ氷入りの容器をハリスの額につけた
「…日本の中学生ってキモが座ってんだねぇ…」
ハハハと苦笑いでハリスが言う
「うんやー? 俺らってか…ここが多分特別なだけじゃないかと思う…けどねぇ…普通じゃないことが普通なんだしさー動くヒマワリとか」
「アレには驚いたわ;」
南からカキ氷の容器を受け取ったハリスがまたも苦笑いをした
「というか…さっきの人達とかって…全部キョウスケの家族じゃないでしょ?」
「えっとー…;」
シャクっとカキ氷にスプーンをさしたハリスが聞くと困った南が坂田の方を見た
「…家族だ」
坂田が一呼吸置いて言う
「あいつらは全員この栄野家の住人で家族で俺の友達だ」
「俺のじゃなくてー; 俺らー; もーみつるんてばー;」
坂田が言うと南がそれを追いかけて付け足すように突っ込んだ
「…血は?」
「血が繋がってないと家族じゃないんかい、関係ねぇじゃんそんなん…人類みな兄弟…って…や…まぁ人類なのかはわからんけどとにかく兄弟で家族でいいじゃん」
途中独りでブツブツいいながらも坂田がハリスに言った
「…うんいいね」
ハハッとハリスが笑う
「正月町をジュンイチが自慢していたのがよくわかるよ」
「順ちゃんが?」
空になったカキ氷の容器を片手にハリスがコメカミ部分を数回叩きながら言った
作品名:【無幻真天楼 第十二回・弐】ハリスのハリセン 作家名:島原あゆむ