おデブちゃんの肥満外来体験記
ローテーションと栄養指導・目標編
退院後の肥満外来のローテーションについてです。
私には治療する項目がなかったので(高コレステロール血症は痩せたら下がると
言われ、薬は無し)、診察は3ヶ月に1回。
他にもカウンセリング等が入ります。分かりやすく表にすると
7月の予定表
7月2日/先生の診察・栄養指導
7月14日/スポーツ指導
7月16日/栄養指導
7月28日/カウンセリング
このような形になります。
これが半年間続くわけです。
ちなみに半年で栄養指導とカウンセリングは終了しますが、スポーツ指導は
受けられます。そして指導を受ける人は3ヶ月に1度の診察が必須。
肥満外来と普通外来では決定的に違う所があります。
普通外来では医者が治してくれますが、肥満外来では基本的に治すのは自分です。
頑張るあなたを全面的にバックアップします! が基本姿勢です。
しかし患者さんにスタッフが会えるのは月1回程度。
そのため、患者さんはバックアップしてもらうために、たくさんの資料を
作らなければなりません(資料を書きこむ専用用紙はもらえます)。
暇……あわわ、こまめでなければ出来ない大事業です。
そう、肥満外来に通うにはお金だけでなく時間と根気も要るのです。
私がその管理栄養士さんと出会ったのは、いつだったか覚えていません。
45歳くらいの、優しい顔立ちをした小柄な女性でした。テーブルには
魚や肉やご飯の標本のような物が並べられ、カロリー本が3冊置かれ、
壁には栄養成分表が貼られていました。
「初めまして、渡辺(仮名)と言います。半年間、頑張っていきましょう」
「はい。よろしくお願いします」
私は神妙な顔で頷きます。
渡辺さんはイラスト入りのプリント用紙を私に見せながら、人間は一日
どのくらいのタンパク質を摂るべきか、脂質はどのくらい摂って良いのか
点数計算を交えて説明してくれました。
小さなご飯の標本(小さなご飯茶碗に中盛り程度)を触りながら、
理想はこのくらいで一回分です、なんておっしゃいます。
イヤイヤご冗談を。
私の微妙な表情をくみ取ってか、ふふと笑います。
「足りませんよねえ」
「はい、まあ」
「ふふ、私も毎日これより多く食べてます」
ですよねー。しかし渡辺さんは明らかに標準よりやせ形です。
痩せていれば普通に食べても良い! これ、悲しいけど現実なのよね。
「お肉はこのくらい、野菜はこの程度……」
渡辺さんは表と模型を使って滑らかな口調で説明を続けます。
「すみません。私、料理をあまりしないもので、説明されても分からないんです」
「お料理はご家族の中でどなたが?」
「母が……あと、スーパーで出来合いの物を買ったりとか」
私はつい最近まで母と祖母と暮らしていました。私に台所を使われるのを
とても嫌がった祖母は、私が料理をしようとすると妨害してくるため、
短時間で簡単な料理しか出来ませんでした。祖母が老人ホームに行った後、
今度は母が私とは味覚が違って嫌がったため、一人分材料を買うのは
もったいないと言うことで、病気の母が作っていたのでした。
「それじゃ、お母様にもお伝え下さい。次に、この表を作成しましょう」
渡辺さんの手にはコピーとホチキスで作られた薄い冊子がありました。
表紙には「まい子さんの食事記録」「レッツ! 私の目標」とあります。下は空欄です。
「ここには半年間の目標を書きこみます。何にしましょうか……」
「1/1ヶ月2キロ減、なんてどうでしょう?」
「良いですね(ニコニコ)」
「2/一日2000kcal以内」
「そうですね、あまり低くしても良くないので(ニコニコ)」
「最後はやっぱり運動ですよね……」と私。「よし、私、ジムに通います!」
近くに市営のジムがあって、1回700円です。
週2回で5600円。い、痛い……。
しかし女は根性、ここまで来たらやるしかありません!
何か燃えて来ました!
「素晴らしいですね! で、次は週間目標です」
ガクッ。
「週間目標もあるんですか……」
「決めること、いっぱいあるんですよ」
「じゃあ、お酒は……(おずおず)」
「お酒飲まれるんですね。やめますか?」
「しゅ、週1回で」
「おつまみはどんなものを?」
「唐揚げとか、ポテチが多いです」
「それは、出来れば野菜にした方が良いかも」
「冷や奴もダメですか?」
「豆腐はタンパク質なので……」
き、厳しい。
「……分かりました。2/お酒は週1回・つまみは野菜ですね!」
そんな高い目標、絶対守れるもんか。
とりあえず週間目標は【お酒は週1回/つまみは野菜/おやつは一日200kcal/
週2回ジムに通う】としました。
「間食は一日100kcalでも良いかと……」と渡辺さん。
「100kcalっていくらくらいですか」
「製品によりますが、ポテチなら4〜6枚、まんじゅうなら半分ですね」
「とんでもない、死んじゃいます」
ふふ、と可愛らしく笑って「そうですね。まずは200kcalから始めましょうか」
100kcalの悪夢から逃れられた私、気をよくして渡辺さんの話を聞きます。
冊子は、ようはレコーディングダイエット(以下レコダイ)用のメモでした。
レコダイとは、一日に食べた物を書き出すダイエット法のことです。
なるほど栄養指導をするには最適でしょう。そのレコダイ用紙には
毎日の体重・体脂肪率記入欄もありました。
「毎日出来るだけ記入なさってくださいね♪」
「?」
豆腐はタンパク質だとはねつける厳しさを見せた渡辺さんの
「出来るだけ」という甘い言葉に、私は引っかかりを覚えたのですが……。
後から聞いたのですが。このレコダイ、きちんとやる人が少ないらしい。
真っ白だったり、体重だけ書いてきたりete
私ですか? そりゃもうきちんと書きました。手放しで褒められたくらい。
なんせ書くことは好きなもので、張り切って書きました。
作品名:おデブちゃんの肥満外来体験記 作家名:まい子