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あたためますか?

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橘は話しているうちに自分が泣きそうになっていることに気付き箒の柄をぎゅっと握り締めた。
力がこもっている手にもう一つの手が重なる。
いつの間に自分の下に来たのか…その手が皇の物だと理解したが、
半べそをかいている顔を見られないように俯いたままだ。
そんな橘の気持ちと反対にいつもと変わらぬ口調で皇は言う。

「おい…顔をあげろ」

皇が自分の近くに来てくれたことに嬉しさを感じているが、高校生の男が泣きそうになっているなんて恥ずかしい、という気持ちが先行し顔を上げることができずにいた。
なかなか顔を上げない相手に痺れを切らし、皇は重ねた手を橘の顎に持っていき軽く持ち上げる。
その行動に反応して自動ドアが 開きやさしい風が二人の髪を撫でていく。
サラサラと髪を靡かせて二人は見つめ合うが、あまりにも真っ直ぐな皇の目にうろたえて橘は視線をずらした。
顎から手を離し皇は言う。

「別にお前といるのが退屈なわけではない。
ただあまりにも仕事がなさすぎて俺はどうしていいのかわからないだけだ。
だからお前が泣きそうになる必要はない。」

いつもとは少し違う優しめな口調にたじろぎながら静かに橘は頷いた。
それと同時に泣きそうになっていることが相手にバレてしまったことに気付きみるみるうちに顔が赤くなる。
否定をしようにもまっすぐ顔を見られてしまっていたのでどうしようもなかったが
少し意地を張りながら「別に泣きそうになんかなってないです…」と小さく呟いた。

 
傍から見ればすでに恋人同士のように見えるが、二人はそのような関係までに至っていない。
皇 龍迩(スメラギ リュウジ)という男は非常に鈍感なのである。
小説家のくせに人の気持ちを見抜く能力が欠落しているのだ。
そのせいか彼の書く小説は心理描写が単純なホラー小説ばかりだ。
これが意外にも結構売れているのである。
そんな鈍感男にいつの間にか思いを寄せていた橘 卓美(タチバナ タクミ)。
果たして二人の行く末はどうなるのか…。

それはまた別のお話。


皇と橘の場合(1)終わり。



作品名:あたためますか? 作家名:だら