あたためますか?
シフト 皇 10:00~21:00 橘 10:00~20:00
空は晴れていて、心地よい風が吹く。
そんな街のはずれにあるコンビニ「虹色マート」。
開店は朝の10時、閉店は夜の9時。
いつも二人ずつのシフトで回している今時めずらしい超絶暇なコンビニなのだ。
「……暇すぎる」
あまりにも客が来ない事を、レジに立ちながら不機嫌そうに呟やく彼は皇 龍迩(スメラギ リュウジ)。
職業は小説家の22歳。髪は濡れた様に黒く、切れ長の目が特徴的だ。
本業で既に食べていけているが、部屋にこもり机に向かう生活に発狂。
気晴らしのためにここでバイトをするようになったのだ。
「ははは…でも僕は出勤するだけで楽しいですよ?」
箒を持ち、にこにこ微笑みながら話す彼は橘 卓美(タチバナ タクミ)。
有名な橘財閥のお坊ちゃまだ。
窮屈な屋敷の生活に嫌気が差し、両親には内緒でバイトしている。
現在高校2年生。くりっとした二重の目に茶色がかった猫っ毛。
背が小さいのでよく中学生に間違えられるのが本人は恥ずかしいと思っている。
客が来ないくせに商品は割と豊富にある「虹色マート」。
店内はキレイに保たれていてそこらのチェーン店と何の変わりはない。
橘が自動ドアに箒を近づけるたびに春の風が中を吹き抜けていく。
楽しいと言う橘にあまり納得がいかない様子の皇は春の風に髪を靡かれながら言った。
「…楽しいか?…まあ家に居るよりマシだが…」
「楽しいですよっ!家に居たらお父様とお母様うるさいんですもんっ!」
頬を膨らましながら屋敷での愚痴をすぐさまこぼし、テキパキと床を掃き続ける。
両手で箒を持ちながら掃くその様はまるで中学校の掃除の時間だ。
中学校…そういえばこいつは高校生だったなと、ふと皇は思い出した。