SAⅤIOR・AGENT
一方、力の押し合いで疲弊してきたんだろう、兄貴が押されつつあった。
「くっ……」
『どうしたどうしたぁ? 随分辛そうだなぁ?』
ボーガはわざとらしく言って来た。
何しろ兄貴は両手を使って右拳を止めているが、ボーガは左手が残っている、わざわざ左手を出さなかったのはわざと兄貴を疲れさせる為だった。
そして左手が振り上げられた。
『そろそろ終わりにしてやるぜ!』
ボーガは目を見開いて拳を振り下ろそうとした瞬間だった。
「待ちなさい!」
後ろには不破さんが息を切らせながら仁王立ちした。
「ファーランっ!」
『ほおっ、お前地球人じゃなかったのか、まぁどんな奴だろうと俺様には敵いやしないけどなっ!』
ボーガは大きく息を吸うと紅蓮の火の玉を吐き出した。
一方不破さんは避けるどころかその場から動く気配すらなかった。
「部分開放っ!」
不破さんが目を見開いた瞬間、辺りに局地的台風が起こったかのような突風が吹き荒れて火の球をかき消した。
そして不破さんの姿にも変化が訪れた。
大きな頬月色の瞳が爬虫類のような目になると白かった肌の両目の下に牙状、両手が緑色に変色し、罅割れて鱗の肌となった。
そして背中が破けてコウモリのような羽根が飛び出し、ツインテールの中央の頭にも枝分かれした鹿の角ような物が現れた。
不破さんの変身を見た私は固唾を飲み込んだ。
「これが…… 不破さんの本当の姿?」
『いや、地球人の姿を残している、そもそもドラン人の姿は地球人の何倍もある』
両手に持っているギルが説明してきた。
ドラン人は固体こそ少ないが宇宙でも並外れた知力と強靭な肉体と長い寿命を持つ種族として有名だった。
『地球にもドラン人が度々訪れている、彼女達の一族は地球では龍、もしくはドラゴンと呼ばれている』
そう言えば不破さんの本当のフルネームはファーラン・『ナーガ』、ナーガとは龍の名前(国によっては蛇神とも言う)だ。
ただドラン人にとって『ナーガ』とは苗字ではなく部族の名前で、他にも『ドレイク』族や『ワイバーン』族などがいるらしい、
「たあああっ!」
不破さんはボーガに向って突進した。
『チィッ!』
ボーガは左手を振るって不破さんに向かって裏拳を放った。しかし不破さんは片手でいとも簡単に止めてしまった。
『なにっ?』
ボーガは驚いた。
僅かに驚いて右手の力が緩まったんだろう、兄貴はボーガの腕を振り払って渾身の蹴りを放った。
『ぐおおっ?』
がら空きになっていた腹部を攻撃されてボーガはよろけた。
「くぅ……」
兄貴はその場に膝をついた。
すると不破さんが兄貴に近づこうとした。
「タクミ!」
「話は後だ。あいつを倒せ!」
「分った!」
不破さんは臨戦体勢を取った。
地面を蹴って走ると間合いを詰めてジャンプ、顔面目掛けてパンチを繰り出した。
『ぐはあっ!』
ボーガは顔面を殴り飛ばされて地面に転がった。
さらに不破さんが翼を羽ばたかせて空高く舞い上がるとボーガ目掛けて急降下、右足を突き出した。
『チッ!』
だがボーガはそれを回避すると不破さんのキックは外れて地面を砕いた。
しかしその威力はとんでもなく、土煙が宙に舞い、僅かだが地面が揺れた。思わず私も倒れてしまった。
『このぉ…… 調子に乗るな!』
ボーガは地面に落ちていた自分の鎖を手に取ると遠心力をつけて不破さん目掛けて投げつけると不破さんの小柄な体に太い鎖が絡みついた。
『ひゃははっ! こうなりゃこっちのモンだ!』
ボーガは兄貴みたいに不破さんを痛めつけようと鎖を引いた。しかし鎖はビクともしなかった。
『なっ?』
何とボーガは驚いた。不破さんは微動だにしていない、
「こんな物〜っ!」
さらに不破さんが両腕に力を入れると上半身を縛り付けていた鎖が引きちぎられた。
『な、何だとっ?』
「ロン! セイヴァ―・アームズを転送して!」
『了解』
ロンが光り輝くと両手にセイヴァ―・アームズが転送された。
ただし兄貴のとは違い、銀色のトンファー型だった。
クレーターの中から飛び出した不破さんはボーガに向って攻撃をしかけた。
「うりゃあああっ!」
高速の打撃が腹部に何度も放たれて打ち込まれるとボーガは痛みに顔を歪めて行き、さらに不破さんの渾身の左の一撃が水月に炸裂した。
『ぐはあっ!』
口から胃液を吐きながら腹を抑えて前かがみになるボーガにさらに不破さんは攻撃を放った。
「α・モードっ!」
両手のセイヴァ―・アームズの縦棒に金色のエネルギーが集まった。
そして一度退いた右腕を勢いよく上に放つとボーガの顎に命中、ボーガの巨体は宙に舞い上がった。
『グギャァァァ―――ッ!』
ボーガ・リードは断末魔を上げながら光の粒子となってゼルベリオスに転送され、戦いは終了した。
作品名:SAⅤIOR・AGENT 作家名:kazuyuki