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『成功だ』
 ギルの言葉で目を開けるとそこは病院ではなかった。俺の後ろには古びた大きな倉庫があった。
「チッ、またそれっぽいところに……」
 閉鎖された病院とか廃工場とか、何で異星人ってのはこう言うところを好むのか疑問になった。
『指名手配犯なのだから当然だろう?』
「んにしても地球は辺境の田舎だぜ? 隠れる場所は十分あるってのに……」
 俺はセイヴァー・アームズを転送してもらうと開きっぱなしになっている入り口から正々堂々中に入った。
 中に入ってすぐ俺はある物を見つけた。
 それは四角いビニール製の袋だった。それに張られているシールの文字を見ると俺は顔を顰めて入れ物を持つ手に力が入る。
「あの野郎……」
 多分美佳ちゃんとか言う子に使うはずだった血液だろう、
『いるぞ、タクミ!』
「ああ、分かってるよ……」
 俺はさっきから背後から突き刺してくるような異様な視線が気になった。
「さっさと出て来いよ、モーキ星人、キースっ!」
 すると俺の背後に何かが降り立った。振り向くとそこには名を叫んだ奴が立っていた。
 見た目は人間に近いが目が真っ赤で昆虫のような複眼をしており、尖った耳に異様に青白い肌、まるで重力に逆らったような箒のように長い黒髪に首から下はもうすぐ衣替えだと言うのに黒いコートを着込んだ男だった。
『私を知っていると言う事は、只者ではありませんね?』
「ああ、セイヴァー・エージェントだよ」
 俺はセイヴァー・アームズに光の刃を作ると切っ先を向けた。
『おやおや、私は何かしましたか?』
「ふざけんな、お前自分がした事を覚えて無いとでも言うのか?」
『お前は4つの惑星の住人の血と命を奪った。被害者は100を越えている、ゼルベリオスは貴様に捕縛命令を出した』
『おやおや、ゼルベリオスも随分横暴になりましたねぇ…… 私がやってるのは狩りですよ』
「狩りだと?」
 キースは人を食ったように笑い出した。
『当然ですよ、地球人だって腹が空けば獣や魚を殺すじゃ無いですか、それと同じですよ』
「お前らの主食は血液、一昔前ならそうだったかも知れねぇが近年の科学技術で人工血液を作れるようになったじゃねぇか、それで充分だろ」
『それを横暴と言うのです、それはあくまでも貴方達ゼルベリオスが勝手に押し付けた事でしょう?』
 今からおよそ300年前、モーキ星人達は自分達の星の生物を食い尽くし、新しい食料を求めて宇宙に飛び立った。
 ゼルベリオスにより人工血液を作る技術を教えられると連中は母星に還って大人しくなり、宇宙連邦条約を結ぶ事にしたと言う、
「ゴチャゴチャうるせぇよ、とにかくテメェがさっき攫った女の子を返しやがれ、怪我なんかさせたら承知しねぇぞ!」
『怪我させたら?』
「一滴でも血を抜いたら許さねぇって事だよ!」
 俺が奴を睨みつけるとキースは両手を上げた。
『無粋ですねぇ、人に物を頼む時にはまずその態度を……』
 目を閉じて首を振りながらため息を零す奴に俺は大地を蹴って走るとセイヴァー・アームズを下段に構えて振り上げた。
『っと?』
 野郎は瞬時に回避してジャンプ、近くにあった機材の上に乗った。
『これはこれは…… まだ話してる最中なのに……』
「悪りぃけどお喋りの時間は無いんでね、テメェが居場所を教えるのもぶった切ってから探すも同じなんだよ!」
 舞の話じゃ病気らしいしな、下手な事をして病気が悪化したら命に関わるかもしれない、そうなったら舞が悲しむ所じゃない、
『ククク、知ってますよ、あの子は病気なのでしょう? そして私が飲んだ血も特別な物…… となれば簡単に手に入らない、私があの子も長くないでしょう?』
「んだと?」
『病気で苦しみ死ぬよりも私が捕食した方が楽に死ねると言う意味ですよ。大体地球人の命は結構短い方なんでしょう?』
「それ以上喋るな、このエセ紳士が!」
 確かに美佳ちゃんの手術は簡単とは言え失敗する可能性だってある、どんな人間でも死ねば終わりだってのは俺が一番良く知ってる、
「そりゃ地球人の命は他の星と比べりゃ結構短いぜ、でもな…… その限りある命でも泣いてくれる人間がいるんだよ!」
 俺は地球に帰って来た時の舞の涙を思い出した。
 大事な人間が居なくなった時の残された者の顔、アレは見れたもんじ無い、俺がコロニーで死んだと思った時にもあいつも泣いたんだろうな…… ツンデレだから顔には出さないけどな、