SAⅤIOR・AGENT
私はハンカチを届けに彼女の病室までやって来た。
オレンジの生地に可愛らしい熊がプリントされたパジャマを着た黒髪のお下げの彼女の名前は安達美佳ちゃん、二月前から入院している小学校3年生の女の子だった。
「ありがとね、お姉ちゃん」
「いいのよこれくらい」
私は言うと美佳ちゃんはハンカチを見つめた。
「このハンカチ、誕生日に買ってもらった私のお気に入りなの」
「そう、じゃあもう落としちゃ駄目よ……」
「うん、明日手術だから、どうしてもこれが必要だったの……」
「えっ?」
私は顔を強張らせた。
何でも彼女は血液型が大変珍しいので輸血できる血液が見つかるまで手術ができなかったと言う
「でも一昨日ようやく血液が手に入ったから明日手術をするんだって、だからこれ、美佳の御守りなの」
「良かったわね…… あ、そうだ」
私は左腕のブレスレットを外すと美佳ちゃんに渡した。
「これね、私の兄さんが御守りだってくれたの…… ダサいデザインで悪いけど、美佳ちゃんに貸してあげる」
「ありがとう」
美佳ちゃんは喜んだ。
その後私達は他愛の無い話しで盛り上がったけれども兄貴以外の人間とこうして話せるのは久しぶりだった。
その翌日、私はいつも通りの日常に戻る、相変わらず兄貴の姿は無く、今日も来ないのかと思ったが……
「おっはよ〜っス!」
5時間目が始まりそうになった時に兄貴が登校してきた。
「えっ?」
私は驚いて兄貴の方を見る、この時はもう仕事が終わったのかと思った。
授業が終わって放課後、私は兄貴と供に校門を出た。
「逃げられた?」
「ああ、俺が駆けつけた時にはもう逃げられた後だった……」
今度の星人が起こした事件とはある車が襲われて詰れてあった荷物が盗まれたのだと言う、つまり今度は強盗だった。
兄貴は悔しがりながら舌打ちをした。
「モーキ星人、キース・ヴァラン…… 地球で言う所の蚊みたいな宇宙人だ。他の星の人間の血を主食に生きてる」
「えっ?」
今の言葉に私の周囲の時が止まった。
「そいつは固体によって味覚が違うんだけど、気に入った人間の血は根こそぎ吸っちまうんだ。ったく、あいつら科学技術が発達して人工血液を作り出せたってのに……」
「に、兄……さん?」
「ん?」
聞くのが怖かった。
できれば間違いだったと信じたかった私は思い切って聞いた。
「その車ってさ…… もしかして救急車か医療関係の車じゃなかった? そして荷物って特殊な血液じゃなかった?」
「ん、そうだけど…… よく分かったな?」
私の周りの音や兄貴の声が小さくなって行った。真っ白になった私の頭に真っ先に浮かんだのは……
「美佳ちゃん!」
「おい、舞?」
我に返った私は走り出した。
兄貴が私を止める声が聞えるけど今はそれよりも確めたい事の方が優先だった。
早く行ったってバスは来ない、ロクに頭が回らなくてもそれだけは分かってる、だから上着から財布を取って中を確めると……
「すみませーんっ!」
手を上げて叫ぶとタクシーを止めた。そして病院まで頼んた。
「ちょっと待て!」
閉じるドアを兄貴が素手で止めた。
時間が惜しいので説明もせずに私は兄貴もタクシーに乗せた。
作品名:SAⅤIOR・AGENT 作家名:kazuyuki