SAⅤIOR・AGENT
それからオレ達は塩田ちゃんと分かれると千鶴ちゃんの車でマンションに向かっていた。
「千鶴ちゃん、本当に良いのか?」
「何が?」
バックミラー越しに後部席にいるオレを見た。
オレが心配してるのはあくまで塩田ちゃんの事もあるが千鶴ちゃんの事だった。
「塩田ちゃんをセイヴァー・エージェントにするなんざ正気の沙汰とは思えないぜ」
「そうだよ、アタシは反対、あの子すっごい苦手だし!」
「貴様は少し見習った方が良いと思うがな」
「ううっ……」
助手席で頭の後ろで手を組んでいたファーランとオレの隣に座って腕を組んでいるバイスが言って来た。
ちなみにサイモンは『野郎3人が並んで座ると狭いし、うぜぇ』と言う理由で千鶴ちゃんの携帯に入り込み、ファーランの目の前のアタッシュボードの上に乗っている。
『だけど千鶴ちゃんも無茶するぜ、あんな約束するなんてよ』
「彼女の顔はオメガに見られてるわ、まだ指導者も捕まっていない以上狙われて無いって保証は無いんだから」
「そいつはオレが倒したぜ、狙われるなんてありえねぇよ」
「絶対って言いきれる? 連中の情報網を甘く見ちゃダメよ」
それを言われるとちょっと痛い。
オメガほどの組織なら独自の情報網を持ってるだろうし、もし彼女に何かあったとすれば責任取りきれなかった。
やって来たのはマンションの前だった。
オレ達が車から降りると千鶴ちゃんは車の窓を開けて言って来た。
「私はこれから緊急班長会議に出なければならないから出かけるけど…… 貴方達は次の出撃に備えて休んでおきなさい」
それだけ言うと千鶴ちゃんは去って行った。
「さてと、オレ様はちょっと抜けるぜ」
「サイモン?」
「ちょいとやる事があるんだよ、覗いても良いけどどうなってもしらねぇぞ」
見たいような見たくないような……
こいつが以前から何か作ってたのは知ってる、だけどこいつのラボはこのマンションの地下にある、もちろん無許可で……
サイモンはオレ達に背を向けながら手を振って去って行った。
「さて、オレはコンビニでも行ってくるけど…… お前ら何か食うか?」
「あ、アタシ中華弁当がいい!」
「ちゃんと金出せよな」
「ケチ!」
「……ん? どうしたバイス?」
するとオレはいつもしかめっ面のバイスがさらに眉間に皺を寄せているのに気が付いた。
「班長の様子が変だ」
「そりゃ…… まぁな」
オレも考えた。
千鶴ちゃんは話しが分かる方だがセイヴァー・エージェントの規則には厳しい人だ。
本来塩田ちゃんみたいに話しの分からないタイプは記憶を消すはずだけど、何と言うか彼女を試してる…… みたいな感じだった。
「チヅルちゃんって確か元戦闘派だったんだよね、一昔前は『鮮血の女帝』とか言われて恐れられてたって……」
ファーランは顔を青くした。
普段から千鶴ちゃんにどやされてるからその二つ名に恐れをなしてるんだろう。
どんな理由があったかは知らないが千鶴ちゃんは戦闘派を退いて今は探索派のセイヴァー・エージェントになったらしい。
「まぁ、どんな理由があろうが、俺達には関係ない、あの人が上官である以上従うだけだがな…… ちなみに俺のは牛カルビ弁当だ」
バイスはそれだけ言うとマンションの中に入って行った。
しかも金はオレ持ちだった。
作品名:SAⅤIOR・AGENT 作家名:kazuyuki