「哀の川」 第三十三話
潤子は純一の言葉をしっかりと耳に残していた。まだ高校生の由佳が、これほどしっかりとした青年と結婚できることは、自分の贅沢であると感じた。環の母親とすこし言葉を交わし、連絡を取り合いましょうと、メモを取っていた。
セミがジージーとやかましく鳴いている墓苑での二十歳の夏はいろんな想い出を残しながら、過ぎようとしていた。札幌のホテルも結局は三人で泊まった。
潤子といろんな話が出来てそれはそれで良かったと、東京に戻って来て、純一は思った。由佳は、純一と環先生が男女の仲になっていたことを何となく感じていた。
そして、先生が流産した子供は、ひょっとして純一との子供ではなかったのかとも、勘ぐられた。そのことを確かめる勇気もなく、また、そうだと聞いて自分がどうこうするわけでもないから、胸にしまって、今までどおり変わらずに仲良くしてゆきたいと、気持ちを切り替えていた。
作品名:「哀の川」 第三十三話 作家名:てっしゅう