「哀の川」 第三十三話
麻子は純一の顔をじっと見て、「この子ったら、先生にまで手を出して・・・仕方ない息子だわ・・・杏子さんの影響なのよね、きっと」そう感じた。母親の視線を痛く感じた純一は、押されることもなく、「世話になった人だから」とだけ言った。
自分が自殺に追い込んだと今もそう考えている。悔やみきれない思いも三年が過ぎて忘れかけている。墓参りは罪滅ぼしも兼ねていた。由佳も黙って純一を見ている。
過ぎたことは詮索しない・・・今は自分が純一の大切な人になっている、そう思えば早すぎる死に対する悲しさだけが思い出される。
自ら命を絶たなくてはならなかった思いが、流産だと知ったことで、女として成長した由佳には、あまりにも辛い気持ちだったことが解る。
お盆が過ぎて、世間が静かになりかけた頃、純一と由佳親子は上野から日立へ、そして、仙台から飛行機で札幌へ向かう旅行に出発した。前もって電話をしておいたので、日立駅には山本の母親が出迎えに来てくれていた。懐かしく純一の姿を見つけて、大きく手を振った。
作品名:「哀の川」 第三十三話 作家名:てっしゅう