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「思い出した?」

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「……そういえばさ、俺のファーストキスの相手、スピカだったんだよな」

 初夏の或る日の、とある漫画喫茶にて。
 めいめいの読書の休憩として、アイスクリームを食べていた少年少女。
 その金髪の少年の方――アンドリューが黒髪の少女に声を掛けた。
 彼のすぐ隣に腰掛けていたスピカは、思わぬ発言にバニラアイスを吹きかけた。

「なっ、な、い、いきなり何を言って……!?」
「今、急に思い出した。そん時も、こんな風にベンチに座って、」
「……あ、」
「思い出した?」

 にこりと笑った彼と、幼少の頃、一度だけ会った少年の笑顔が不意に重なる。
 あの少年のことは、よく覚えている。忘れられるはずがなかった。天使のようで、犬みたいなオトコノコ。

「成長したよな」
「そちも……あの時は、まさか同い年だとは思わなんだ」
「あはは、今もだろ?」
「何を……でも、中身は全然成長していないな」
「え、」

 スピカはくすりと口端を上げ、金髪の恋人の口元についたアイスをぺろりと唇ごと舐め上げた。
 一度ぽかんと間抜けな顔をし、次の瞬間、真っ赤になった。
 アンドリューの頬が、何年振りかにもう一度揃った二人の成長を物語っていた。
作品名:「思い出した?」 作家名:狂言巡