アイラブ桐生 第4部 49~50
また、尾根伝いに眺望が開けてきました。
サントリーの山崎工場を見下すことが出来るちょっとした広場で
遅めの昼食をとることにしました。
「おちょぼが、お千代さんが朝早くから用意をしてくれた
お弁当をひろげます。
山頂からは、だいぶ歩いてきましたが、
ここにもほとんど人目はありません。
「おちょぼ」が、煮ものを箸でつまんでいます。
「お兄ちゃん、お口を開けて、あ~んをしてください。」
含み笑いをして、おちょぼが迫ってきました。
「こら、はしたない。人さまが見たら行儀が悪いと思うだろう」
とたしなめると、おちょぼはまったく涼しい顔をしたまま、
ゆったりと周囲を見回します。
「どなたもおりませぬ。心配することなどはあらしません」
と、意に介しません。
「格式の煩い祇園のお座敷では、
そんな過剰なサービスは絶対しないだろうに、」
と反論をすると、
「ほんに・・・・小春姉さんに知られたら、しこたま叱られますぅ」と、
今度は一転して、コロコロと笑いこけています。
それでも、「今日だけは、特別ですさかい、)と、さらに執拗に
すこぶる嬉しそうな顔で迫ってきます。
結局、根負けをしてしまいました・・・・
稜線からの登山道と別れをつげました。、
ここから麓の小倉神社まで下っていく小路は、そのほとんどが竹林の中です。
竹林の中を辿る小路も、実に良く手入れが行き届いています。
小路の両脇には、どこまでも行っても竹の垣根が続いています。
そこぶる安全な下り道になると思って油断をしていたら、思いがけないところで
本日最大の難所が待っていました。
小路が大きく右に曲がり込みながら、その先に急峻な斜面が現れました。
ちょうど竹林の中を、約半分ほど下ってきた処です。
日陰になっている辺りが雨上がりのように濡れていて、
足元が滑りそうな気配がします。
見た目以上に、難所となる急坂でした。
滑らないようにと「おちょぼ」の手を引いてやり、足元を確かめながら
歩幅を狭くして、ゆっくりと下り始めました。
遠くからは、かすかな瀬音も聞こえてきます。
脚を止めて前方を伺がうと、斜面を下りきった先に、
小さな橋が見えています。
その橋を渡れば、前方には小倉神社があるはずで、
そこが登山道のゴールにもあたります。
境内にある大きな杉の木とモミの巨木は見えましたが、
赤い社殿の屋根は、深い緑に囲まれたままで、
ここからは見ることができません。
もうひとつ、竹林越しの茂みの間から、
かすかに確認が出来たのはシンボルとされている
境内にそびえた、ペアの御神木のようです。
濡れた斜面ももう少しというところで、
「おちょぼ」が、足を滑らせました。
作品名:アイラブ桐生 第4部 49~50 作家名:落合順平