VS都市伝説
とりあえず押し入れから高校時代汗水血へどを共にしたバットを取り出す。う、ちょっと埃っぽいな。グリップに巻かれたテーピングがべろべろになっていることに、少し懐かしさを感じた。ああ青春の日々よ。俺がはるか昔の高校時代に思いを馳せていた、そのとき。
『ピンポーン』
「キタァ!」
「きゃあ!」
インターホンの音に飛び上がる俺。流石の美織も、少しはビビッているようで、表情が硬い。床に転がっていた金属バットを握り、恐る恐るインターホンのディスプレイを覗き込んだ。
小さな影。ふわふわしたブロンドの髪に、濁った青いガラスの瞳は右目が割れてぽっかり穴が開いてしまっている。レースは破れ裾が千切れた、くたびれた赤い色のドレスを着た、人形――。
「(あ、横腹へこんでる)」
「みおちゃんは?! なんか言ってる?!」
「あっ、ああ……」
インターホンの受話器を取る。ローキックで撒けるなら放置していてもいいと思うんだが、みおちゃん人形があまりにも恨めしい目で見てくる。右目の暗闇に引き込まれそう。
『あたしみおちゃん……いまあなたの家の前にいるの』
「お、おう……」
不気味に表情を崩すみおちゃん人形に、慄く俺。金属バットを握る手にも力が入る。こめかみを汗が伝った。
美織は震えながら、きゅっと上着の裾を掴んだ。いざとなったら俺は戦わなければならん。男だからな。
『中に入れて……』
このマンション、玄関オートロックだった……。