失恋天使
1. cockroach
「えっとですね。 今日は宗教の話をします。」
いつも通りの世界史の授業。
クラスの30人くらいはノートを広げて先生の声を拾っている。
そんなクラスの様子を見ながらペンだけを動かし、全部の神経はひとりに向けられている。
教室の一番廊下側の列の前から三番目。
菅原優菜。
俺の好きな人っていうか。彼女…
高校に入学してすぐの球技大会で一目惚れをして夏休みに告白して付き合った。
今は2月。 3学期にはいってすぐだから、かれこれ5ヶ月くらい付き合っている。
黒板にチョークが引きずられる音で授業に意識が帰ってきた。
「これは輪廻という考え方です。 たとえば小林君が死んだとします。」
クラスのほとんどが小林を見て笑った。
「死ねっていっているわけじゃないですよ。 死んだ小林君は犬に生まれ変わりました。」
犬っ!犬っ!って言葉が飛び交う。
「その小林犬は盗みを犯したりするとても悪い犬だとします。そうしたら、小林犬はゴキブリに生まれ変わります。」
またクラスが笑った。
「でも小林君ゴキブリは仲間を助ける勇敢なゴキブリだったとします。 まーそんなゴキブリいるかわからないんですけど。」
先生も自分のくだらないたとえで笑ってしまったようだ。
「そうしたら小林君は大富豪に生まれ変わります。このサイクルを輪廻転生と言います。」
先生が黒板に字を書くと同時に優菜のほうを見たら、ぐっすり寝ていた。
なんだよ… 授業聞けよ。
そう思ったけど、俺も睡魔に負けてぐだって寝落ちしてしまった。
気付いたら授業が終わっていて、どうやら号令も終わっていらしい。
「なに寝てんだよ~」
さっき寝ていた優菜が俺の隣の席の机に座っていた。
「お前だって寝てたじゃん! 気づいてるからね!」
バレた?と笑いながら誤魔化す優菜。
クラスのほとんどがバッグに教科書とかを詰め込んでいたり、部活に行くために準備していた。
「ほら約束のマック行くよ!」
強引に俺を引っ張って連れて行こうとする。
「ちょっと待ってまだ片付けてないから!」
そういって慌ただしく教室を出て、学校の最寄り駅のマックまで話ながら歩く。
「ね~ あと二週間でテストだよ! 勉強してる?」
「してねーわ! 部活で忙しくてさぁー」
「ちゃんと勉強しなきゃだめ。」とアホなくせに注意してきたので、頭を軽く叩いて。
「優菜に言われたくないわ~」
痛てっ。と言ったかと思えば。
「こら~」と繋いでた手を思いっきり握ってきた。
「痛い!痛い…」
それを見て優菜は笑う。ごくありふれた日常。
駅までは歩いて10分くらいあるが気付かぬ間にチーズバーガーを頼んで食べていた。
その後も会話も弾んでいき、マックで話してそろそろ帰るとなったとき、こんな話題が出た。
「孝はなんでウチを好きになったの?」
初めてあったときから、ショートっぽい髪型で目がクリッとしていて可愛いなぁーと思っていた。
でも本当は見た目じゃなくて、ちょっと子供っぽくて、素直に俺を好きになってくれたところ。
「ね~。 どーなの?ね~」
そう聞いてきたのでいつものように意地はって。
「勘…」と答えると。
「さいてー 誕生日になにもあげないからね!」
「ごめん。ごめん。全部。」
「その言い方もやだ。」
実際そうなのに。本当に冗談だと思ってるのかな。
ちょっと不機嫌になったらしくふてくされた顔で俺の左手をつねってくる。
こんなお互いいじっているが、実際に喧嘩したことは一度もない。
話が一段落したところで。
「そろそろ帰る?」となって、マックを後にした。
「孝は今日どうやって帰るの?」
この「孝」という呼び名も優菜が「他の人と同じじゃヤダ!」とか言って、タカヒロのからタカになった。
「今日は電車なんだよね~」
「そっか。それじゃここでお別れだね。」
改札までもう少しのところまで二人で歩いた。
「テスト終わったらよみうりランドでも行こうか?」
そう提案すると優菜は「行く行く! それじゃあテストがんばんなきゃじゃん!」
「それじゃあ。計画たてなきゃ。」
「うん。楽しみにしとく。」
優菜がじゃあねと言いかけたとき。
優菜の手を引っ張り抱いて。
「キスしてい?」という言葉が出た。
「ここ?恥ずかしいって。」
「それじゃあ。よみうり行かないー」そういったら。
「わかった。」顔は嬉しそうにしていた。
優菜が恥ずかしそうに目を閉じた。
人が行き交う駅の柱の影で好きな人の肩に触れ。
そうしてゆっくりキスをした。