鈴~れい~・其の一
この度、御前試合の決勝戦に進んだのはこの猛者揃いで知られる柳井道場でも五本の指に入ると謳われた高弟門屋陣右衛門であった。今年、二十八になる。
更に対するのは、柳井亀之助というまだ若い青年、いや、その華奢な肢体やすんなりとした手脚は、まだ少年と呼ぶに相応しいものだ。柳井姓を名乗るからには、いずれあの伝説の剣聖柳井幹之進にゆかりの者かと、誰もが眼を皿のようにして試合のなりゆきに注目している。
つややかな黒髪を頭頂部で高く一つに括り、上品な紅梅色の麻の葉模様の小袖、紫の袴を身につけたその姿は凛々しく可憐でさえあった。
「あの者の名は」
それまで興味もなさそうにそっぽを向いていた藩主が初めて視線を動かした。恐らくは、御前に進み出た挑戦者が並み居る猛者たちと闘い、勝ち抜いてきたような強者にはおよそ見えなかったからに相違ない。
「はっ、両名のうち、御前に向かって右手に控えますのが―」
傍らの家老矢並頼母が畏まって言上しようとするのに、嘉利は煩そうに片手を振った。