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打算的になりきれなかった一週間

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第三章 粘着質な女



学校の門をくぐってすぐ、8人の女子の集団に捕まえられた。
「ちょっと校舎の裏手まで来て頂戴」
------校舎の裏手につくと、代表らしき女の子が一歩前に進んで言った。
靴は緑。3年生の証だ。
「昨日中多君と一緒に帰ったって本当なの?」
「本当ですけど、それが何か」
代表の背後で少女達が口々にざわめく。
「中多君の噂は知ってるわよね?」
噂どころか、真相まで知っていたけれど話がややこしくなりそうなので言わないでおく。
「知ってます」
「なのに、何故?」
「個人的には別に良いと思うんで……」
「好きなら大問題でしょう?」
「……」
代表はわざとらしくため息をつく。
「とにかく。我が中多ファンクラブとしては、そういうことは見過ごせないの」
「えっ裏協定まだ生きてたんですか!?」
抜け駆け禁止の裏協定。びっくりだ。てっきり撤廃したのかと。
「そうよ。婚約者くらいで撤廃するわけないじゃない。私たち、これに青春
かけてるのに」
それは……なんというか、悲しい青春だなぁ。
代表はなおもぶつくさと
「あの寿絵とかいう女が協定破ったかと思えば、次はあなたよ。全く、
3年を馬鹿にしてるわ」
むっとした。一年早く産まれたくらいで、何がそんなに偉いというのか。
少なくとも、翔大の前カノは好き合ってたんだし良いじゃないか。
個人の自由だ。
「とにかく、中多君には近づかないで。これは警告よ。じゃなきゃ
後悔することになるわ」
「そういうの、迷惑なんですけど」
ファンクラブの背後から低い声がして、私たちはそっちに目をやる。
女の子達が蜘蛛の巣を散らしたように逃げていった。代表と数人が踏みとどまる。
中多翔大が立っていた。険しい顔をして。
「もしかして寿絵も苛めてたんですか、坂口先輩」
「……何の事かしら」
代表------坂口というらしい------は、翔大から目線を外さずに言った。
「あなたのためよ」
「こんなの全然俺の為じゃ無いじゃないですか。人が彼女作ろうが
何しようが俺の勝手だ」
「婚約者がいても?」
翔大はぐっと詰まる。坂口先輩はいやらしい笑みを浮かべた。
「ほら。何も言えないじゃない。少なくとも私が卒業するまでは、
あなたに好きに彼女を作らせたりなんかしないから」
緊迫した空気に、私はおずおずと口を挟んだ。
「坂口先輩はし……中多君が好きじゃないんですか」
「なっ」
坂口先輩の頬がかすかに赤く染まる。私は畳みかける。
「好きなら何で、相手を困らせるようなことをするんですか。良いじゃないですか、
他の人を好きになっても。その人が幸せなら、それで良いんじゃないですか?」
自分でもきれい事だと思ったけれど、すらすら口をついて出た。昔読んだ
ライトノベルの受け売りだ。
坂口先輩は目をしばたたかせると、ふん、と鼻で笑った。
「お子ちゃまね。……あなた本当に、中多君のことが好きなの?」
ぎく。疑念を抱かれてしまった。
翔大がしびれを切らしたように言う。
「とにかく、この子には手を出さないでください」
なんだか不思議な気分だった。翔大が私を庇うのが。このシチュエーション、
ずっと憧れてたんだけど、まさかこんな形で叶うとは。
「約束は出来ないわ」
うわめんどくせ。現実は小説のようにはいかない。
その時だ。予鈴のチャイムが鳴った。私と翔大は優等生なので行かなきゃならない。
坂口先輩は知らないけれど。
「じゃ、俺たち行きますんで」
そそくさとその場を退散したのだった。


「あれは何」
「ファンクラブ代表、坂口艶子。1年の時、俺が振った人」
放課後の漫研部で、私たちは部室の壁にもたれながらおしゃべりしていた。
横にかかっている水彩画の額まで漫画絵だ、当たり前だけど。
「なるほどね。あなたを恨んでるってわけ」
「粘着してるんだよ。この2年間ずっと。ありえないキモさ」
言って肩を竦める。「……何、武蔵小路さん」
大人しそうな……といえば聞こえは良いが、暗そうな女の子が翔大の
前に立った。昨日デッサンをしていた子で、今日も部長の上半身裸を描いていた。
武蔵小路さんは部長を指さす。
「絡んで……」
? 何? 私が翔大の方を見ると、翔大は慌てた様子で
「だから俺はそういうのやらないって。単身モデルならやるけど」
「そろそろ諦めろ、中多。ここはそういうクラブだっ」
上半身裸の部長が翔大に襲いかかる!
きゃーっと唯と武蔵小路さんが黄色い声を上げた。唯、お前もかっ。
部長に押さえつけられた翔大がこちらに手を伸ばす。
「助けて、ちょ、俺本当にホモダメなんだってば!」
気の毒である。しかし私には進言するくらいしか脳がなかった。
「部長。中多君、部をやめちゃいますよ」
ぴたりと部長が止まる。翔大は部長を押しのけると、深い深い息を吐いた。
「助かった……」
「まあ何、冗談だよ冗談。はははっ」
「……貞操の危機かと思った……」
「ごちそうさま……」
青い顔の翔大に、武蔵小路さんがスケッチブックを抱きしめながら、
きらきらした目で言う。何が「ごちそうさま」なんだ……?
「俺、ちょっと今日は帰る。裕美、マックで緊急会議だ」
「了解」
私は鞄を手に取ると、翔大の後をついて部室を出て行った。