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最後の魔法使い 第二章 『学者さん』

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第二章 『学者さん』

 ロウア―サウスの中心街から離れた住宅街を進む途中、ディディーは何度も「おい」とか、「心配すんなって」とアレンに話しかけたが、アレンは一切答えなかった。アレンはディディーを無視したつもりはなかった。だが、どうしようもないくらい気分が沈んでいて、答えようとしても声が出なかったのだ。
そのうちディディーは振りかえることもしなくなり、アレンの前を、ひたすら暗い中を進んだ。
 自身が本当に『魔法使い』だと分かっても、アレンはその事実をいまだ受けいれられずにいた。あの一本の煙草が、指先のほんの少しの熱が、自身が信じてきた「アレン・フォン・ジアーズ」という存在を全否定できるなんて、アレンは考えたくもなかった。だがそう否定すればするほど、アレンは現実―焼け野原になった故郷、おいてきた家族、自分を追いかけてきたアッパー達―が自分を怒鳴りつけているように思えた。アレンは眼をつぶって、首を左右に振った。『魔法使いである』という現実に、アレンは疑問しか抱けなかった。
なんで母さんは、18年も、俺の正体を教えてくれなかったんだろう?
『魔法使い』はおとぎ話じゃないのか?
『魔法使い』は悪人なのか?
政府に襲われる理由なんて、どこにあるっていうんだよ?

 次々と疑問は浮かんでくるものの、それに対する答えがなければ無意味に思えた。母のいとこは何か知っているのだろうか、とアレンは思った。
答えがなければ…俺はどうしたらいいんだ。

 自分のことと同等かそれ以上に、アレンは母やジジのことが心配でしょうがなかった。最後に家族を見たのは数日前だ。ジジは炎で死ななかっただろうか。マチルダは無事だろうか。家は燃やされなかっただろうか。もし政府軍がアレンの家を探しだして、マチルダがアレンを逃がしたのだと知ったら、ウェズナー将軍はマチルダを生きて逃がしてはくれなかったはずだ。アレンは、さっきとは別の恐怖を感じた。マチルダとジジの叫び声が聞こえるような気がして、アレンはぐっと目を閉じた。家族はきっと無事だ、と自身に言い聞かせることくらいしかアレンにはできなかった。