ドラゴンの目
時が経ち、王子様は隣国のお姫様と結婚して、王様となりました。優しく聡明な王様の元、人々は穏やかな暮らしを送ります。
ある風が強い日のことです。
この国は、冬から春にかけて嵐に襲われ、それが秋の豊かな実りをもたらします。
人々は、慣れた手つきで家の戸締まりをしていますが、王様だけが、今年の嵐は今までと比べものにならないほど大きいものだと、気がつきました。
このままでは、きっと大変な被害が出るでしょう。
王様は、ドラゴンの目と向き合った後、大臣達に、国中全ての人を城に避難させるよう命じました。
大臣達は驚き、王様を止めます。
「陛下、いくら城が大きくても、全ての人を避難させるなど、出来るものではありません」
「無茶なことは分かっている。けれど、私はこの国と民を守ると誓ったのだ。この誓いだけは、我が身を裂かれようと、破るわけにはいかぬ」
仕方なく、大臣達は兵士に命じて、国中全ての人を避難させました。
人々は、王様はとても優しい方だが心配性すぎると笑います。けれど、お城の中に入れるなんて滅多にないことと、皆喜んで向かいました。
ぎゅうぎゅうになったお城の中で、人々は身を寄せ、譲り合いながら、一夜を過ごします。
今まで聞いたこともないような、激しい雨風と雷の音に眉をひそめ、怯える子供を皆でなだめながら、王様の心配事が現実になったのだと噂しあいます。
もし、王様が城を開けてくれなかったらどうなっていたかと、人々は安堵のため息をつき、どうか自分の家が朝まで残っていますようにと神に祈りながら、夜明けを待ちました。
夜が明けて、王様は、町がどれほどの被害を受けたか確認しようと、お城の塔に上りました。
王様が塔から顔を出すと、何と無数のドラゴンが翼を広げ、王国の周りを覆っているではありませんか。あれほどの嵐が襲ったにも関わらず、町は昨日と変わらない姿で、眼下に広がっています。
驚いた兵士達が、ドラゴンに弓を射かけようとするのを制し、王様はドラゴン達に声を掛けます。
「心優しき万物の王達よ、これはいかなる訳があるのでしょうか。あなた方の献身に、私には報いる術すらありません」
その声に応えるかのように、群の中でもひときわ体の大きいドラゴンが、お城に近付きます。
王様は、そのドラゴンが片目であることに気がつき、歓喜の声を上げました。
「ああ!また貴方に会えたこの喜びを、どのように言い表せましょう!貴方は常に私を導き、私の心を迷いから救ってくださいました。今また貴方は、この国をお守りくださった。偉大なる王よ、私は貴方に、永遠の忠誠を誓いましょう」
王様の言葉に、ドラゴンは首を下げると、優しく王様を口にくわえます。人々の悲鳴が上がる中、王様をその背に乗せると、優雅に空へと舞い上がりました。
王様を助けようとする兵士達に笑顔で手を振り、王様はドラゴンの背に乗って空を舞います。
その姿に人々は驚き、ついでドラゴンが王様を襲うのではなく、逆に王様の為にこの国を守ったのだと気がつきました。
悲鳴は歓喜の叫びに変わり、人々は口々に王様とドラゴンを称えます。
この時から、王国はドラゴンを守護神として尊び、優しく聡明な王様とドラゴンの友情は、長く語り継がれることとなったのでした。
昔々の物語。