ハッピーマリアージュ
「お前は人の気持ちを決めつけてんじゃねぇよ!何がミチコがうかばれるだよ彼氏面してんじゃねぇ。俺の方がミチコのことずっと好きだったんだよ小3からだよ急に入ってきたくせに横取りしやがってクソ。ミチコもミチコだよ何でコイツだったんだよ背が高くてイケメンだったらよかったのかよ同じ部活で全国大会とかいっちゃうヤツの方がよかったのかよ。しかもお前性格までいいとかおかしいだろ俺が敵うとこなんて一つもねぇよ。そんなお前に俺の気持ちがわかるわけねぇよな。五人でどっか行こうってなった時もカップル二組と失恋男一人ってどう見ても俺が痛くて寂しいヤツじゃねーか誰か気ィ使えよ!お前ら空気読めないくせにやさしいしおもしれぇし超楽しかったよバカ!」
ぽかんと口を開けて驚いた間抜け顔のナカノをざまーみろと思いながら俺は止まることはできない。体なんて一ミリも動かなかったけど。
「第一お前は俺たちに遠慮しすぎだったんだよナカノのくせに昔からいちいち気配りしてんな。あいつが死んでからとくにそうだよお前は調子のってふざけてたけどみんな気づいてたからな。自分で企画したイベントはみんな誘って大はしゃぎでやるくせにこっちが誘ったら忙しいから今回はやめとくとか行っても大丈夫かって俺以外に確認とるとかいちいちうっぜーんだよ!友達なんだからいいに決まってんだろバカ!」
そして「うそ、なんか俺ってはずかしい……」とつぶやくナカノに追い打ちをかける。
「そうだよお前は恥ずかしい奴だよ。はっきり言って最近俺のことやけに見てくるし気付かないふりしてたけどうすうす感じてたよいろいろ!お前はもともとオーラがやばいんだから自覚しろよそれを!認めたくねーけどこっちも意識すると変な気になるっていうか、いや全然まったくこれっぽちもならねーけど、それにお前しばらく彼女つくる気配ねーしこっちも下手に勘ぐるだろうがクソ。話す気なかったけどこの際だからついでに言うと、俺がなかなか彼女つくんねぇのはミチコのことがあるのはぶっちゃけ確かだけどただ俺がモテないってのとそういう報告するとお前が超嬉しそうにするくせにそのあとテンション下がってしばらく連絡してこないからで、とにかくお前はわかりやすすぎんだよ!別にお前のことなんかどうでもいいけど連絡なかったらなかったで彼女より気になってくるしフラれるしでお前のせいでもあるんだよ女カンケイはぜんぶ!今までの分責任とれ!」
「え、じゃあ、けっこん……する?」
「しねーよバカ!」
うっすら半泣きになりながら赤い顔して笑うナカノを見ていると、男二人で片思いだ元彼だ好きだ嫌いだで泣いててなんか俺たちめっちゃ女々しいな、と思った。
そしてふと、昔ナカノのことを紹介されてしばらく経った頃のミチコのセリフを思い出した。
確か高校二年の六月、まだ肌寒かったのに夏服一番乗りだったミチコは「アキとトモくんは絶対仲良くなれると思うんだよね〜。私も応援するから!」とか言って、昼休みにグラウンドでサッカーをするナカノを窓から眺めていたけど、その時の俺は白いセーラーが似合いすぎるミチコにドキドキしていて、トモくんと呼ばれているナカノのことがまだ嫌いだった。
今考えると「応援」ってなんだ?って気がするし、いやいやまさか……とまぁありえないんだけど、そのまぶしかったミチコを未だに好きだという気持ちと、はっきりさせたくないがいろいろ申し訳ない気持ちとが混ざり合って、何とも複雑な30歳。
しかし俺がぼーっとしている間にも何かを吹っ切って復活しているナカノは、正面から俺の肩を抱いて無駄に整った顔で「アキ」と名前を呼ぶ。
嫌な予感がするなぁと思っていると、「俺、本当に今アキのことが好きだ。付き合ってほしい」とか言い出してうわ的中しちゃったよ、とげっそりするが、真剣な目で「もうアキにもミチコにも遠慮したくない」とか囁かれたら俺はもうどうすればって心を許しそうになってしまって、俺らもう30だぞ?なに純愛してんだ……と持ち直しつつ俺の返事も聞かずアイツは俺の口にキスを、しかも二回も、って舌入れてきやがったくそぉぉおおおお!!
「お、ま、え……」
「ごめん我慢できなくって」と言い訳するナカノにさっきより怒り心頭な俺は思わず「ミチコにもこんなことを……」と漏らしてしまい、自分で言っておきながらつい想像してしまいナカノとのキスを経験したからこそやけにリアルで自分に大ダメージくらうわ、「えっ!そこ!?」とナカノもテンパるわでもうどうしようもない。
しかし遠慮をしなくなったナカノは「とりあえずもう終電ないしどっか泊まる?」と早速下心を見せ始めたので一発殴るとして、ほんとミチコ、十三回忌なのにごめんな。
作品名:ハッピーマリアージュ 作家名:百瀬川