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ただ書く人
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羊の皮をかぶった山羊

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「あなたの話を信じるならば、あなたは誰も殺していない。そして、今は悪魔もいないので誰も殺さない。そういうことじゃないか」
「それはそうですが……」
「ならばいっしょに来てくれ。あなたはやさしい。そしてずっと苦しんできたんだ。これからは幸せになってもいいはずだ。その姿を気にするのなら無理に家を出ることはないさ。ただおれの家にいてくれればいい。働く必要もない。おれは出世してもう牢番じゃないんだ。こう見えても騎士なんだぜ。まだ見習いだけどな。いずれはもっと出世してやるさ」
 元牢番の騎士見習いは、強引にサクラを連れて森の外に出た。そして彼は、サクラが悪魔から渡された黒い袋を森の外につないでいた馬の背に乗せ、右手で馬の手綱を、左手でサクラの手を引いて自宅に向かった。
 その道のりでサクラは再び黒い涙を流した。「ブサイクなおまえに寄ってくる男なんていやしない」「永遠にひとりで生きろ」といった悪魔の言葉を思い出し、それでも自分にやさしくしてくれる男がいたことを喜んでいた。騎士見習いが自分を愛してくれなくてもいい。いずれ彼が自分を見放す時が来るかもしれない。それでも構わない。今は家に迎えてくれるという彼につくして生きよう。サクラはこう決意した。
 その夜はサクラが作った料理をふたりで食べ、酒を飲み、騎士見習いは自分の寝室のベッドにサクラを案内した。新婚初夜を思わせるその雰囲気に、サクラは思わずこれまで目の前で死んでいった男たちを思い出したが、同時に今は悪魔がいないことを喜んだ。醜い姿となった自分に、このような幸福が訪れようとは思ってもいなかった。そして、酒を飲んでいたためか、サクラはいつの間にか眠り込んでしまった。
 翌朝、サクラが目を覚ますと、白かった枕が、そして同じように白かったシーツが、一面黒く染まっていた。サクラの胸には剣が突き立てられており、金や珊瑚や真珠が詰まった黒い袋はなくなっていた。そして、騎士見習いの姿も彼の馬の姿も消えていた。