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アイラブ桐生 第4部 44~46

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 「悪いね、わざわざ呼びつけて。とりあえず、一杯いこうか」


 なみなみと注がれたビールを飲み終わらないうちに、
悦子さんも入ってきました。
後ろ手に、しっかりと隙間を確認をしながら障子を閉めきりました。
マネージャーのとなりに正座をした悦子さんが、
二杯目となるビールを注いでくれます。




 「君の口が固いことに、俺たちはおおいに感謝をしている。
 だが、事態はもっと深刻になった。」



 そう言うと今度はマネージャーが、
3杯目のビールを注いでくれました。



 「そこで・・・・俺もこいつもようやく、お互いの腹を決めた。
 ものは相談というのは、実はその件だ」


 マネージャーのたじろがないまっすぐの目が、
真正面からやってきました。
正座をしていた悦子さんも、瞳を閉じてから
いっそう背筋をのばします。



 「考えた末のことだ。
 こうなった以上、俺はホテルの仕事も、家族も捨てる。
 こいつと二人で、駆け落ちをする。
 出来る事なら、こいつと二人で、もう一度人生をやり直してみたい。
 そのくらい、こいつを一目見た瞬間から、俺はこいつに惚れちまった。
 簡単に許されないことくらいは俺も充分に承知をしている。
 充分とは言わないが、今まで貯わえててきたものは
 すべて家族のために置いていく。
 それがせめてもの、今の俺にできる罪滅ぼしだ。
 この身ひとつでの、無一文での裸の再出発をする、
 それでもいいからと、こいつも承知をしてくれた。
 俺には過ぎた女だと改めて思うくらい、俺はもうこいつにぞっこんだ。
 落ちのびる先を、東日本の関東あたりと決めた。
 誰も知り合いの居ない、新しい土地で、こいつと再出発をするつもりだ。
 そこで、おりいって、君に相談したい。
 温泉地が多い、群馬方面の伝手(つて)がほしい。

 だれか紹介をしてくれる、適当な人を知らないか。」


 単刀直入に、マネージャーから切り込まれてしまいました。
ある程度は想定はしていたものの、
これははるかに私の想定を超えていました。
修学旅行生相手のホテルとはいえ、
本館と西館を合わせれば100人以上の従業員がいます。
マネージャーといえば、その最頂点に立つひとりです。
当然、妻子持ちで二人のお嬢さんがいるとも
聞いていました。




 またマネージャーと悦子さんとでは、一回り以上も年齢が違います。
しかし今夜のマネージャーは、きわめての真顔です。
大人と言うものは、こんな風に火が点いて、時として、
突然として道ならぬ生き方への暴走を始めることもあるのでしょうか・・・・
それが何であるのかは、私には察することはできません。

 ただ、家庭を捨てると言い切るマネージャからも、
それを黙ったまま熱く見守っている悦子さんからも、
ただならぬ決意ぶりだけは、此処へ着いた瞬間から、
なぜかひしひしと感じていました。
手にしたコップをテーブルへ置くこともできず、
まとまらない考えだけが、頭のなかで忙しく掛け巡りました。
しかし、いくら考えても何も答えが見つからず、ただただ、
真っ白になるばかりでした・・・・