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異聞・大化の改新

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政敵を堂々と殺すチャンスであり誰もがお手打ちと思ったのを、なんと押しとどめたのです。
鎌足が中大兄皇子の本当の味方ならこのチャンスを逃がすはずがありません
ところが、逆に押しとどめたのです
これは鎌足は大海人側の人間であったとしか思えないことなのです
乙巳の変、それは後の天武天皇、大海人皇子と後の藤原鎌足、中臣鎌子が朝鮮半島の新羅の国を助けるためにおこした、というのが真実なのです
国撰歴史書である古事記や日本書記とは全く違う内容で、本当にそうなのでしょうか?
国撰だから嘘は書かれていない、というのは大きな錯覚なのです
この古事記・日本書紀は天武天皇が命じ天武王朝の時代に完成しています
つまりこの二つの歴史書は日本の国書というより天武朝の正当性を国民に押し付けるためのものなのです
中国など諸外国の歴史書は次の王朝、すなわち次期政権が前政権のことを書くわけだから、遠慮なく悪口でもかけるわけですが、この日本書紀などは時の権力者の祖先のことを書くわけですので、悪口なんてかけません
しかし、実際の編集者は天智天皇の隠し子といわれる藤原不比等なので、よく読めば真実がわかる、というものが随処にみられますが
和を以って尊しとなす、という太古から平和主義の国、日本
それは反面長いものには巻かれろ、寄らば大樹の陰、といった無責任な面もあります
その良民の弱さを利用してきたのが時の権力者、
そしてその結果が、勝てば官軍、力が正義、といった国をつくるのでしょう
その第一歩がこの乙巳の変から始まる大化の改新、そしてその後の壬申の乱なのです

陰謀のはじまり
『なぜ、吾は報われぬのじゃ
あの石川は蘇我のうまれというだけで、暦も読めぬのに政に加わっておる
吾はあの南淵先生ですら一目おいてくださるのに
蘇我がたいほうする仏とあいはんする神につかえる神官
あの物部尾輿さまとともに仏に反対したことを今だ根にもたれておる
蘇我に歯向かうものは世にでられるのか
ああ、つまらぬ世の中じゃ』
『鎌子、これ鎌子
ここじゃ、ここじゃ』
『あ、漢の皇子、いや大海人の皇子』
『どうじゃ、そちの願いかなえてやろうか』
『誠でございますか
『ぜひもございません』
『されば、あす暁に談山神社にまいれ、大兄にあわせてやろうぞ』
『あの日嗣の皇子にでございますか
まことでございますか。夢か狐狸に誑かされているのではございませんな』

その翌日、半信半疑ながら鎌子は段山神社に歩をすすめた
そこには、間違いなく中大兄皇子がたたづんでいた
その横には何食わぬ顔の大海人皇子もいた
『そちが中臣鎌子と申すか
漢の皇子がいうには南淵先生が天才と賞賛しておられるとか』
『時には先生にかわり代読もいたしおりまする』
『たいしたものよのう
良かろう、明日より吾に教えよ
されど、その名だと入鹿が不審におもうやもしれぬ』
『廃仏論争のおりは入鹿さまはまだ小そうございました
やつがれをご存知ではございませぬ』
『さようか
よかろう、名を藤原鎌足と変え、出仕せよ』
『ありがたきお言葉
これからは身命を賭して、お仕えいたしまする』
これだけの会話で中大兄皇子は足早に去っていった

『どうじゃ、鎌子、願いかなったであろう』
『大海人さまのおかげでございます
新しい姓をもいただきました
ところで、吾になにをせよとおおせられます』
『さすがじゃの鎌子、吾のこころをよみおったわ』
『大兄さまを殺せとでも、おおせでしょうか
そういわれても驚きませぬ
大海人さま、いや、漢のひと
あなた様のお立場も危ういものでございますからな
あなたの国、新羅はいままさに風前のともし火でございますからな
特に、入鹿様のお考えでは・・・』
『そのことじゃ、大兄はおそれはせぬが、あの蘇我入鹿じゃ
 あやつは、恐ろしい』
『まかせてくだされ
日嗣の皇子にその入鹿を殺させてみせましょう
いずれ、百済のくによりお使者が朝貢にまいりまする
そのおりにわが謀にて大兄に入鹿を殺させて見せましょう
ご安心くだされ、吾も出雲の血をひくもの
さかのぼれば大海人さまと同じ血をひくものでございます
日嗣の皇子、中大兄皇子とは血が異なります
明日より大兄を誑かす狐狸となりましょう』
作品名:異聞・大化の改新 作家名:紫 良空