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大切な光

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聞こえてくるのはカラスたちの賛美。
その声はある一人の人物に捧げられ、優しく冷酷な時間の幕開けを教える。
にたりと薄気味悪い笑みを張り付け、ゼウスを見た。
オリュンポスには決して足を踏み入れぬ、冷酷無比なるゼウスの兄弟。
ダークブルーの瞳に宿るのは慈悲ではなく、慈愛でもない。
ただ一つ鋭利な殺意。
「会いたかったぞ?弟よ…よくもまぁ、遊びほうけられるなぁ」
その声はどの酒よりも甘く、どの毒よりも危険。
ひたりひたりとゼウスに近寄る。
「黒き翼の王がお前を牢に入れ、貴様の血肉が王の血肉となる」
ゼウスはハデスを睨む。
だが、奇妙だ。普段のハデスがゼウスに近寄ることは、皆無に等しい。
自分を諌める時は、拳が一つや二つ飛ぶが。
意味深な言葉を呟くハデスにとって自分は光だという。
『お前は俺らの大切な光。可愛い可愛い光の御子。大切な弟をどうして、兄が貶める?』
昔、ティタノマキアの時代。
ハデスが全てに希望を失いかけたゼウスにはなった言葉。
その言葉に救われて、自分はここにいる。
ポセイドンすら嫌味が飛ぶがあれは、嬉しいだけだと。
優しく忠告した兄ハデス。
こんな冷たく怜悧な言葉など兄は、呟かない。
この殺意は。
知っている。色濃く兄に血を与えた張本人。
「何の御用ですか?…父上、いや大罪人クロノス!!!」
玉座から立ち上がり言い放つ。
ハデスもといクロノスが愉快だと言わんばかりに嗤う。
「くくく、何故ばれたかな?」
焦りはなくどこか面白そうだ。
ハデスの姿をとき、クロノスは自らの姿となる。
冷たいスカイブルーの目は淀み、体には多くの鎖が付いた跡。
髪は乱雑にほつれ、唇は不気味な孤を描く。
程よく筋肉の付いた体は逞しく、何処かハデスの体と似ている。
ハデスは一番クロノスの血が濃い。
故に秘めている力も精神力もクロノスと同等。
だが心優しい故にその力は抑制され、発揮されることはない。
自分たち『家族』に危害が及ぶまでは。
「兄さんが私に近づくことはありません。俺は、あの人にとって光。兄さんは俺に距離を置く」
「くくく。そうだろうなぁ~。愛した女を奪われたら俺もそいつには近づかん」
クロノスは愉快そうに笑う。
その度に鋭利な犬歯が見え隠れする。
ゼウスがクロノスを精一杯の殺意のこもった眼で睨む。
クロノスはおどけたように笑い、口を開く。
「事実だ。ヘラをハデスは愛した。と同時に貴様も愛していた。」
ゼウスが分からないというように眉を顰める。
考え事をするゼウスにクロノスは、にたりと笑う。
「あいつは、家族愛が一番強い。我の体内の中で姉たちとポセイドンと生きてきた。だが…」
「だが…?」
「あいつは…ハデスはほんの数年間、我とレアと共に家族として生きていた。」
「!!!!」
「我とよく似た容姿のハデスに愛着が湧いたのもあるが…ハデスは狂えば母上にも匹敵する」
「ガイア様にですか?」
ゼウスはよくわからなかった。
ハデスは物静かだ。
そして何も語らずただそこに座するが常だと言わんばかりに、君臨する。
ゼウスの困惑に気をよくしたクロノスは、笑って言う。
「ハデスはレアの血も我の血も濃い。兄弟中一番な…ゼウス、お前だけがハデスの本質を一番知らぬ幸せ者よ」
「何でそうなるのですか?」
「ハデスにとって貴様は猛毒であり妙薬。大切な光の子。あいつが焦がれた者というわけだ」
「理解に苦しみます…」
「理解するな。悟れ…そして、敬え。地の底で我らの苦痛をその身に感じ、ともに嘆く兄を」
「ポセイドンはどうなるのですか?」
「くくくく。あやつも同様。狂えば刃物、狂わぬは鈍器よ。貴様が光を知っておるならあの二人は、本当の闇を知っている」
ゼウスは返す言葉が無い。
いったい兄たちは、何を隠しているのか。
いや、この父は。この罪人は何を言いたい?
クロノスがゼウスを哀れむように見て抱きしめようした。
「!!…ほぉ、父に刃向うか?ポセイドンよ」
日の光を浴びて瑞々しく光る黒髪に健康的に焼けた肌。
黄金の三叉の矛を持った海の覇王。
その目は海の様なマリンブルー。
普段は太陽のように笑っている顔は、殺意を持って父を睨む。
右の手にはサンゴ礁の腕輪と首もとには色とりどりの貝殻がついた首飾り。
クロノスとゼウスの間にあるのは、鋭利な貝。
先ほどポセイドンが投げたものだ。
「刃向うも何も、アンタが俺らを刃向うようにしたくせに、よく言うぜ!!」
「はて?いつそんな無情なことを我がした?」
クロノスが笑う。
ポセイドンはクロノスを睨みつけ、ゼウスとクロノスの間に割って入る。
「お前もお前だ!!親父の幻術に、はめられやがって!!お前、最高神様の威厳何処やった!!!」
「ポセイドン、そう怒鳴るな…ゼウスも必死に抗ったはずだ」
艶やかな何処か掠れた声が神殿に響く。
ポセイドンを諌める声の主は、ハデスだった。
漆黒の長い髪が風に揺らぎ、ダークブルーの瞳がクロノスを射る。
死者のように生気のない顔がクロノスの背後に忍び寄り、クロノスを捕えた。
「おやおや…ハデスまでも我を裏切るのか?寂しいぞ…」
ハデスは鼻で笑うとクロノスの首に黒い鉄の首輪をはめる。
「裏切る?…とうの昔に我らを裏切っておいて、どの口が絵空事を?」
穏やかなようで殺意が見え隠れする言葉にポセイドンも頷く。
クロノスはまた笑う。
そして、ゼウスに話しかける。
「ゼウス、喜べ!お前の兄たちは、貴様を裏切らんようだ!!!くくくく!!愉快、愉快!!!」
その様にポセイドンが顔を歪める。
笑い狂う父を見て不気味に思ったのだろうか。
「…ゼウス、気に留めるな。先ほどまでのこと全て、絵空事と思え!!!」
珍しくハデスが声を荒げる。
そして、ハデスを嘲笑うようにクロノスが言う。
「お前は…いや、貴様らは優しいなぁ。なぁ、ゼウス?」
その目には、殺意と狂気がそして愉悦が入り混じっていた。
ハデスはクロノスの鎖を引っ張る。
そして、自分の聖域である冥界へと父を連れて行く。
その時だ、ポセイドンに何かを伝える様に目を合わせる。
その真意を感じたのか頷くとポセイドンがゼウスを玉座に座らせた。
「邪魔した」
ハデスがそういうと冥府の門は、閉じた。
「くくくく…ハデスよ?我が恐ろしいか?」
「いえ、憎いです父上」
その答えにクロノスが問う。
何故そういうと言うように。
ハデスは父をエリュシュオンの神殿に入るよう促す。
「ゼウスは俺ら兄弟の大切な光です。あなたにその光を壊す権利は無い!!!」
扉を乱暴に閉めて、ハデスは立ち去る。
らしくもなく取り乱したハデスを見て、クロノスがほくそ笑む。
そして、寂しそうに笑った。
「レア、我はどれほど完全な悪になれば子らを救える?…大切な我らの子たちを…?」
一人クロノスは、呟く。
そして、扉を睨みつけ忌々しそうに吐き捨てた。
「…あのガイアから…どうやれば??!」
その部屋には、誰もこたえるものいない。
クロノスだけが苦々しく、そして悲しそうに笑うだけ。


「ゼウス、元気出せよ?な?」
ポセイドンの慰めさえ今のゼウスには、無意味だ。
クロノスの言葉が頭を支配していく。
ハデスとポセイドンは闇をよく知っていると言った。
では、残りの姉たちは?
作品名:大切な光 作家名:兎餅