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夜になってから蝶は舞う-DIS:CORD+R面-

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サンダーバードは眠らない


ピーピーピーと警報が鳴り響く。
柱に備え付けられた伝説上の生き物として、
幼児から老人まで幅広い人類が好きな、『鼻が長く牙を持つ生物ディーゴ』をかたどったスピーカーが喚く。

「敵襲です!緊急脱出用のレシプロ機に急いでください!」
焦りの声に雑音が混ざる。

「敵襲?どうゆうことだね?何者だ!?」
ディーゴの鼻に向かって怒鳴り返す。

なるほど、この飛行船内の通信機になっているのか。レイカーはやり取りを横目にしながら単純に思う。
なかなかにユーモアだな。鼻がマイク部分とは・・・そして窓の外を見た。
横切る影。速い。翼が一瞬目に入った。

何種だ?一瞬だったからよくわからなかったが。急いで窓の近くに行き覗き込む。

「危険です。下がってください」
護衛の者がレイカーに駆け寄り促す。

「いいじゃないか。このタイミングでこの船を襲う種が何者なのか、この目で見ても」
「サンダーバードです」
「サンダー・・・ほぉぉ・・・それはまた珍しい・・・」

ますますこの目で見たいとさらに身を乗り出そうとするが護衛は仕事熱心だ。レイカーの身体を抑え込む。
「は、はやく御逃げください!」

サンダーバード。99種のうちの1種だ。
飛行能力のある種は3種しかいない。そのうちのひとつ。
翼は濃いめの藍色に白い稲光のような模様。
それがサンダーバードと呼ばれる所以だがそれがそのまま種族名ともなっている。
翼を広げると5メートルにはなりかなり大きい。
またその翼を空中で擦り付け電気を起こし小さいが雷のような発光体を噴射してくる。
なかなかに厄介な攻撃だがそう頻繁に出せるものでもない。擦り付ける労力を考えると割に合わない。
人類種が多様な兵器をその手にする前ならその攻撃も有益だっただろうが今や擦り付けてる間に弾丸で撃ち落とされるだけだ。
だから彼らも銃を持つ。人類が発明したその兵器はあらゆる種に流れていき、人類種同様正しい使い方をする種が多い。
独自に改良を加えているものもいる。

とにかくその数がリヴァーダ族同様減少傾向にある、珍しいサンダーバードが拝めるということで少しレイカーは興奮していた。
襲われているのも気にせずに。
空の王者とココで対峙する。
普通の人間なら聞いた途端に恐怖で顔色は落ち込んでいくだろうが、
好奇心とそして何よりもあらゆる種に対抗する術を手にしようとしている者にとっては
面白い見せ物レベルでしかなかった。それがレイカーだ。彼のワクワクは増して行くばかり。

「レイカー君!すぐに脱出機に乗り込もう!奴らこの飛行船に攻撃を加えとる!」

「はぁ、そうですか・・・それは残念ですね・・・
せっかくの食事が。しかし脱出機とはレシプロの機体ですよね・・・大丈夫ですか」
至って冷静。興を冷まされて少し不機嫌だ。
しかしサンダーバードをもっと見ておきたい、とは言わずに『食事』と言ったのは
このレイカーなりの気配りであり醜悪な部分を隠す手段だ。

「し、しかしそれしかない。今、地上から迎撃に空軍が向かっている。とにかく逃げよう」
マダムーダ事務局長はかなり焦っている。しきりに出てくる脂汗を拭き取っていることでも明らかだ。
レイカーの落ち着きぶりが逆に不思議でしょうがないのだろう。

しょうがない。もう少し見ていたいがここはマダムーダ事務局長に従おう。
レイカーはゆっくり脱出機への経路を歩き始める。
途中、ディーゴの形の通信機を見る。

「これは・・・まあ・・・ふむ・・・」

「な、なにをしとるんだ!もう出るぞ!レイカー君!!」

早く逃げ出したいのだ。マダムーダ事務局長は。足がガクガクしているのだ。
今やなぜこんな飛行船で食事などというデートプランのようなことを実行したのか後悔すらしている。

どこかで爆音。銃声も聞こえる。戦闘が始まっているのだろう。
脱出用のレシプロ機に乗り込むと唸りを上げるプロペラ。
一気に大空へ。その横をすれ違うように機銃を積み込んだレシプロ機が通り過ぎる。あれが空軍。
まあまあのスピードだが本気を出したサンダーバードのスピードには敵いそうにない。
まだまだ足りない。まだまだ人類種にはチカラが足りない。

脱出し一気に地上を目指す。離れていく空の戦場。銃声や爆音がみるみる聞こえなくなっていく。



地上に降り立ってすぐにマダムーダ事務局長は通信室へ向かう。
レイカーもとりあえず行き場もないので後をついていく。
ここにある通信機は普通だ。スピーカーとマイク。機械的な黒いメタリックな四角い箱に収まっている。

「サンダーバードだ!サンダーバードに襲われたぞ!!これは許せん事態だ!
翼持ちは協定違反をした!!懲罰を与えろ!!」

ひたすらにわめき声。相手の声なんて聞いちゃいない。

協定違反か・・・翼持ち。つまりは飛行能力を持っている3つの種。サンダーバード、天蛇族、ホーキー族。
これら3種と人類種の間に結ばれた協定。
人類種の本拠であるフォルストレア大陸上空の無断飛行の禁止。
また他大陸や海域上でも飛行ルートを厳しく制限する協定だ。
どう考えても空を飛ぶ3つの亜人種に不利な協定。
要は無理矢理結ばせたものだ。それを律儀に守る方が難しい。
特にサンダーバードは血の気が多い種だ。

レイカーはそう思いながら再び空を見上げる。しかしもう飛行船からだいぶ離れたらしい。
綺麗な青空といくつかの雲しか見えなかった。


「協定違反・・・懲罰だ!懲罰!!レイカー君!!あの翼持ち共に例のアレを使うんだ!」

「例の・・・・・・どれですか?」

アレと言われてもアレが多すぎる。特に最近は。
新たに人類種の手に加えていっている兵器しかり。

「ウイルスだよ!なんと言ったか!?とにかくアレだ!」

「ああー・・・インフルエンザ・・・ですね」
「それだ!!早急に奴らのホームにそのウイルスをバラ撒いてやろう!」
「・・・はあ・・・しかしあれは連邦最高議会の決定がなければ・・・」
「私もその一員だ!議会は私が説得する!即刻だ!即刻!!」

よほど腹が立ったのだろう。快適な食事を邪魔されて。また新進の有望株トラビス・レイカーの前で失態を演じて。
頭に血が上り切っている。

「・・・わかりました。しかし文字通りバラ撒くのは危険です。
周囲への影響もありますので。彼らのホームに行って局地的にしなければ」

「わかったー!すぐに組織しよう!その部隊を!」

まったく・・・感情ですべてを決するこの種はなんというものか・・・呆れてはいるが実に素晴らしい。
レイカーはただそう思うだけ。そしてまたほくそ笑む。