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Life and Death【そのご】

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そのご「読者サービスなのです」


 ――そこには干からびた腕が飾られていた。
 ある宗教団体のある施設。暗い部屋の中に、数人の男女が集まっている。一様に白い衣服を身に纏って、その腕の周りに集っている。拝むように、それぞれが思い思いの祈りを捧げている。
 その中で、一人だけ黒い衣服を見にまとう女がいた。
 その女はその腕を恭しく掲げ、一同を睥睨する。まるでその手に掲げたものが神そのものであると言わんばかりに。
「我ら『白き黄泉坂小会』はこの腕、『死せる生者の腕』をナキガミより承ることになりました。この腕により、我々は新たなステージに昇ることができます。祈りなさい、祈りなさい、祈りなさい……っ!」
「「「祈れ! 祈れ! 祈れ!」」」
 霧の深い夜の出来事であった。

「死人の腕?」
 暗い店内を、彼はアルバイトの若者と共に歩く。
 彼はホームセンターの警備員という仕事に就いている。夜はこうやって警邏に勤しみ、朝になると泥のように眠るのが彼の生活スタイルである。
「そうそう、死人の腕。人の死体の一部が売買されているってだけで警察沙汰なんですが、そいつの噂がまたおっかない話でして」
 バイトはそうさほど恐れていないような口ぶりで言う。
「なんでも、幽霊を呼んじまうんですって。その辺にいる奴らを根こそぎ集めてしまうんだとかなんとか」
「それが一体何になるって言うんだよ」
「幽霊というのは、個体でいるうちはまだ安全なのだとか。たまに恨みが強いヤツがいて、そいつは一人でも危険なのですが、大体は安全なのです。だけれど、そいつらが集まってくると少々厄介になるのだとか。幽霊ってのは死んだ後のもの、生きてる人間にとっては毒なんだって話です。だから、幽霊に憑かれた人間はやつれたり不幸にあったりするんですよ」
「……嫌な話だな」
「まあ、オカルトとか都市伝説の類の話ですからねぇ。真偽の程はあまり関係ないのだと思います。
 ――でして、話は戻りますが、何でもその腕は、いつまで経っても腐らずに瑞々しいままなのだとか」
 彼はそのバイトの戯言を頭で反芻する。
「この辺はそんな妙な噂が多いな。この前なんて、肉の塊が道端を這い回っているのを見たとか、あとは深夜徘徊する謎の子供とか、何人もの身元不明の男がこの辺をうろついているとか、そんな噂ばかり聞くぞ」
「あ、その噂聞いたことがあります。その男たちって、どうも集団ストーカーのようなんですよ。この辺に逃げ込んだSM嬢を追いかけてやってきたM男たちだって」
 まあ、どうでもいい話だ。それが自分の人生にどう関わっているかなど、あまりに関係がない。SM嬢のストーカーだって? そのSM嬢が自分の人生に関わることなど殆どと言っていいほどにありえない話だろう。
 ――実は近いところに渦中の人物らがいることを、彼はまだ知らない。
 それは、数ヶ月前、彼がキングクリムゾンで酔っ払う前の日の会話であった。

作品名:Life and Death【そのご】 作家名:最中の中