その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「能力が使えなくなったのだろう?柳崎」
「君の仕業だったのか」
「いや、違う。それは有須の能力だよ」
え、俺の能力しょぼっ!それだけ?もっとなんか格好いいこと出来るんじゃないの?念能力みたいなさぁ・・・。期待してた分だけ、ずっしりと残念に思う。
「それにしても、敵を助けるとは面白いな」
「目の前で死なれちゃ困る。後味も悪いなんてもんじゃない」
結構本気で答えたのに、宝亀が涙目になって笑う。そっこまで変な行動したか?
奥で鷲尾が立ちあがった。彼まで歩いてくるようだ。宝亀は涙をぬぐいながら、俺の肩にもう一方の手を置いた。おかげで意識がそちらに戻る。宝亀は真正面から俺の目を捕えていて、俺は恥ずかしくなったが、視線がそらせなかった。
「決めた」
何を?俺がそう聞き返す前に、宝亀が俺の前に膝をついた。奥では羊元が戦っている。いつまでも固まっているわけにはいかないんだけど・・・。
焦りを隠さない俺を、宝亀がにやりと笑って見つめてきた。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷