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その穴の奥、鏡の向こうに・穴編

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「打海」と呼びかけると、彼は屈託ない笑顔で振り返った。疑ってかかってるから胡散臭く見えるが、純粋に見れば油断しきった顔である。
「なんで、俺にそんなに詳しいんだ?」
 当然の不安だ。初対面だと思った人がいきなり自分の事を詳しく知っていたら、芸能人とかじゃない限りどうしても警戒する。少なくとも、それでへらへらと笑っていられるほどプライバシーは公開しているつもりはない。
 しかし、打海は不思議な顔をした後、なぜか悲しそうな顔をした。一部を除く一般人の俺には、人を傷つけることに免疫がない。だからものすっごく焦った。なんで?俺そんな酷いことは言ってないだろ?
 打海の憂いは一瞬だった。元の笑顔に戻ると、両人差し指を頬に付け、明らかなぶりっこポーズを決めてみせる。
「にゃー?アリスに関する情報収集において、チェシャ猫の右に出る存在なんていませんて」
「ストーカーか。あとキモいからそれやめろ」
 にゃははっと笑って、手を下す。気のせいだったみたいだ、うん。こんなやつが傷付くことなんてきっとない。
 そう思って、俺は草むらに横たわった。