その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
「なんだね?用がないなら寝るよ」
起きてたの?なら返事しろよ!
「本当に戦争が起きてるのか?」
公爵夫人の武器庫も見たし、粉っぽい血が地面に残っているのも見た。シープ&ゴートでは、軽く戦闘もした。でも、イメージしていた戦争とは違う。飛行機も飛んでいないし、柳崎だって軍隊は連れていたものの、戦車は使っていなかった。それに、けが人もほとんど見てない。目の前にいる服部も愛川も、何の武器も持っていないように見える。
「ま、無所属の非能なら、抱いて当然の感想かもね」
伸びをしながら、彼が答えた時だった。
ガサッ
物音がした。服部が今までののんびりさからは考えられない俊敏な反応でそちらを見る。その手には、今まで持ち歩いていたステッキが握られていた。もしかして実は剣だとか、そういうカッコイイ感じなのか?愛川はいまだ爆睡中で起きる気配はない。スタイル良くて、絵に描いたような美少女が、ミニスカ・ハイソの組み合わせで無防備に寝てるのに、色気も何もないってのは、ある意味凄いことだろう。
「誰だね?」
服部が尋ねるが、姿を現さない。あれじゃね?なんか獣系じゃない?鹿とかウサギとか熊とか・・・。や、熊は困るけど。
「今は休戦中のはずなのだがね」
悠長にそういながら、ステッキを構えた。でも、剣の構えじゃない。あれってもしかして・・・
ドドドドドドドッ
ステッキの先から勢いよく弾丸が飛び出した。どういう仕組みなのかさっぱり解らないけど、あれは銃だったんだ。聞き慣れない爆音に耳をふさいで目を瞑る。びっくりしたのか、トーヴが姿を消してしまった。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷