その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
やっぱり駄目だ。もうこれしかない。
俺はがりがりと頭を掻いて、そのままホールドアップする。
「悪いが、何の情報も持ってない。正直、今初めて知ったくらいの情報量だ」
やばい。ちょっと演劇調になり過ぎた。冷や汗やばい。これくらいさらっと出来てくれよ俺!何処まで何も出来ないんだ俺!
目が泳いでるので、不審に思ったのだろう。が、すぐに服部は嘆息する。
「そんなに怯えるな。知らないのなら『知らない』ということが情報だと言ったろう」
服部の優しさに感謝!良かった!男同士なら信じてくれるって信じてたぞ!いや、騙してるわけなんだけどさ!
再び帽子を脱ぐと、彼は何かをこちらに放ってきた。何とか受け取ってそれを見ると、それは一枚のクッキーだった。そういや羊元が騎士からもらってたな。定番菓子なのか?
目的も意味も解らずに固まっていると、服部が指を指しながら教えてくれた。
「早くトーヴにやりなよ」
「え?」
「・・・君はどこまでも常識の欠けた人だね」
ごめんなさい。でも「常識が欠けている」んじゃなくて、「常識が違う」だけなんだって。俺だって日本の常識くらいは持ってるんだって!
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷