その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
グリフォンの条件
胡坐をかいていた俺の視線に合わせていた彼がすっと立ち上がると、俺より十センチくらい大きかった。相手の方が年齢が上なので、当然と言やぁ当然なのだが、男としては少し悔しい。彼は子供をほめるように、ぐりぐりと俺の頭を撫でた。
「じゃあさっそく」
「ちょっとまて」
浮かれまくる彼に、俺は手を振り払って抵抗した。彼はすぐさましゅんとなり、さっと青ざめる。
「なんか条件に不都合があったか?承諾したんじゃなかったのか?」
この男、頭がいいのか悪いのかわからない。さっきは俺が異世界に来たということをすらすら説明してみせたくせに、相当逃げたいのか今は頭が全く回っていないようだ。ため息をついてから、子供扱いされた腹いせに、今度は俺が子供に諭すように彼に言う。
「俺は異世界人だろ?」
「ああ。それはさっきお前が信じなかったことだろ?」
「そうだな」と相槌を打ってから、俺は勝ち誇ったように言う。
「この世界の常識も非常識も俺は知らない。俺の常識通りに動いて、この世界では大丈夫なのか?」
言った後、自分の情けなさに気付いた。こんな言葉、脅しにもならなきゃ、威張れるもんでもないじゃないか。恥ずかしすぎる。無知を自慢するほど愚かしいことはないだろ、俺!
頭を抱えてもだえ打つ俺を無視して、彼はハッとした顔になる。いまさら気付いたらしい。と思ったら、いきなりドカリと座りだした。せっかく背が高いのにもったいないと思ってしまう。俺だってその身長はほしいのに。
「んじゃ、なんか質問あったらしてきていいぞ」
「は?」
なぜか上から目線だった。年齢も身長も上だからって、頼みごとした相手にミッション成功への最低知識も与えずに遣わす方がおかしいじゃないか。もうこんなやつ無視してやろうかと、すこしさげすんだ目を向けた時、それを察した彼が慌てて付け加える。
「いやいや、わかんないんだって、オレも」
「わかんない?」
すると彼は肘をついて俺を見る。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷