その穴の奥、鏡の向こうに・穴編
有須、ワンダーランドへ
どうしていつもこうなんだろう。どうしていつもこうなるんだろう。
きっと多くの学生が、今の俺、有須啓介(ありす・けいすけ)の心境に同情してくれると思う。
今日の授業で、とうとう中間テストの最後の教科の結果が届いてしまったのだ。そろって芳しくない成績が、頭の中をぐるぐると旋回する。ミキサーのように数字が混ぜられて、一つの文字になって頭に残った。
「留年」
はぁ〜っというため息が知らずに漏れた。中間テストの成績と期末テストの成績を足した総合点が、80点を超えていないといけない留年になるうちのシステム。クラスメートの何人かは、期末テストでの挽回を試みる者が多いが、俺には無理だ。言い訳がましいが、うちの教師陣の傾向として、範囲がどんどん広がるようなテストが好まれる。
つまり、中間テストより期末テストの方が範囲も広いし、格段に難しいということ。
大体ここの先生たちは生徒の実力を過信しすぎている。どんどん範囲を広げて行っても必死に何とかできるのは、一部の頭のいい生徒だけ。というかそれ以前に、うちのシステムから考えると、期末テストは一種の救済処置であるべきだろう。それを何だと思っているんだ。まるで多くの生徒を落としたいかのように、バンバン難しい問題をだして、苦しむ生徒をみて嘲笑う。
と、いろいろ責任転嫁をしてきたのだが、実際のところは違うと俺自身がわかっている。
また、いつもの癖が出たんだ。前回のテストの反省を生かし、真面目にノートを取ってきて、テスト対策のまとめノートまで着実に作ってきた。教師がテストをほのめかし始めたときに、勉強を始めようと一大決心もした。
でも結局決心は二時間で切れ、ずるずると勉強しない日々が続き、いつの間にか試験期間になっている。で、慌てて一夜漬けでまとめノートを見直すも、前半部分くらいしかまとめられていなくて、後半の授業に関しては丸抜け。そんな状態でテストができるわけがなかった。
作品名:その穴の奥、鏡の向こうに・穴編 作家名:神田 諷