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アイラブ桐生・第4部 41~43

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 京友禅は手書きではなく、染め物ですかとお千代さんに尋ねてみました。
京友禅に興味があるなら、仕事場でその様子を見せるから、
今度、遊びに来いという話になりました。

 「説明をしても、あたしの所は煩雑だから、解りにくいわね。
 それを貸してごらん、地図をかいてあげる」

 そう言われて、いつも持ち歩いているスケッチブックを手渡しました。
お千代さんは、鉛筆を片手に適当な余白を探していましたが、
ふと止まったその手がまた、表紙のほうへ戻っていきました
今度は最初のページから一枚ずつ、時間をかけて見つめ始めます。
ずいぶん時間をかけ丁寧に見てから、最後のページをあらためて開け、
自宅への地図を書き始めました。


 私がスケッチ用に使っている鉛筆は「B」です。
濃くもなく薄くもなくて使いやすい色合いですが、
柔らかすぎるのが難点です。
この鉛筆で均一の線を引くためには、見た目以上に技術が要ります。
お千代さんの軽やかに動くその手元の様子に、
思わずクギづけになりました。


 鉛筆は、滑るように走ります。
強弱の乱れがいっさいない、安定した直線と、まろやかすぎる曲線が
次々と、実に綺麗に引かれ続けていきます。
宙に浮いたままの手首は静かに動いて、緩むこともなく
縦横に動き、魂まで籠っているような線を生み出し続けていきました。
線は腕全体で書くという、よどみのない職人の業、そのものでした。


 「はい、これなら迷わずに来られるでしょう。
 アトリエと言っても、あたしのところは、
 普通の家の8畳間だから余計な期待はしないでね。
 昼間はいつでもお仕事していますから、
坊やの都合でいつでもどうぞ」

 受け取った地図は、すべて均一の線で描かれた、
とてもわかりやすい地図でした。
間違わないように、ところどころにも説明書きなども添えてあります。
その下のほうに、何か小さくコメントが書いたありました。



 「坊やの画には、ささやかな心の迷いと線の乱れが有りますが、
 それ以上に、とても大きな探し物をしているようです。
 さてさて、ぼうやが探している、その大きな探し物とは一体なんでしょう。
 おばさんは、そのことに、大変、興味がわいてきました 」




アイラブ、桐生